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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ビン・ラディンを探せ! スパーロックがテロ最前線に突撃!

otello2010-11-27

ビン・ラディンを探せ! スパーロックがテロ最前線に突撃!


ポイント ★★*
監督 モーガン・スパーロック
出演 モーガン・スパーロック
ナンバー 277
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


世の中に満ちている暴力と災厄からわが子を守る。そう決心した父は21世紀最大の“悪人”を自らの手で捕えようとする途方もない旅に出る。北アフリカ、中東、そして中央アジアの山岳地帯、ほとんど情報もない状態から、とにかく現地に行けば何とかなるという突撃精神で関係者を訪ね、市井の人々に疑問をぶつける。時にぶしつけな質問で本音を引き出し、イスラム世界におけるテロリストとは何かを問う。その過程で「戦争もテロもイヤ、しかし米国経済に組み込まれるのも癪に障る」イスラム教徒の複雑な思いと、イスラム圏でも富める国と貧しい国の生活水準の差は激しく宗教的戒律に対する温度差もまるで違う事実が浮き彫りにされる。先進国とイスラム圏というより、イスラム圏内の格差こそがテロリストを産む土壌なのだ。


妻の妊娠を機に、ビン・ラディンを見つける計画を立てたモーガンは、予防接種を受け訓練キャンプで護身術を習う。その後エジプトに飛び、そこでザワヒリの親族にインタビューを試みる。一方で、エジプトの学生たちの強権政治の元で自由が制限されている声を引きだす。


敵を見つけるには敵の考え方を理解すべきと、モーガンビン・ラディンの足跡を追う。だが、米軍ですら捕捉できない男に一民間人がたどり着けるわけはなく、収録されたのは西側先進国が当たり前に享受している権利がないことへの不満。カメラを向けられた市民はビン・ラディンの話題をむしろ避けている。彼らにとっても、ビン・ラディンは反米のシンボルではあるがイスラムの象徴として見られるのは不愉快なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


今やビン・ラディンヒトラーと同様「いくらいじってもかまわない歴史上の悪のアイコン」と認定されたのか、映画はコンピューターゲーム風アニメでビン・ラディンを徹底的にコケにする。ところが当初の目的であるビン・ラディンには、結局かすりもしない。それはアフガンやパキスタンのかつてのタリバン影響下の地域にでも同じ。いまだ戦争が続いている緊張感だけは大いに伝わってきたが、やはりモーガンにとってビン・ラディンというテーマは手に負える相手ではなかったようだ。