こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

平成ジレンマ

otello2010-12-07

平成ジレンマ

ポイント ★★★
監督 齊藤潤一
出演 戸塚宏
ナンバー 286
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


死亡事故を起こし、逮捕、起訴、有罪判決、懲役と、苦難の道を歩んでも信念は絶対に曲げない。“体罰は教育、オレが正義”と口にする時の主人公の表情は自信に溢れ、決してブレないその方針は、報道を通してしか彼を知らない者にも教育者としての一面をうかがわせる。映画は戸塚ヨットスクールと校長の戸塚宏にカメラを密着させ、崩壊の危機にある日本の学校に何が足りないのかを訴える。精神の未成熟な子供たちの人格を認めるのではなく厳しく鍛えることで形成しようとする彼の指導は、それが必要な子供を持つ親からは共感を得られるだろう。だからこそ年間70回もの講演に招かれ賛同者を増やしているのだ。


現在もなお小規模ながらヨットスクールを開く戸塚宏。マスコミや人目を気にして体罰は控えているが、海の上という一つ間違えれば命を落としかねない状況で精いっぱいの努力をさせるやり方は変わっていない。評判を聞きつけ、ひきこもりやニートの青少年が門をたたく。


時折、30年前に問題になった、殴る蹴る踏みつける水に沈めるなどのリンチを加える映像が挟み込まれる。戸塚が逮捕されたときにTVで流された、「無抵抗な少年への暴行」の一面ばかりが強調されて世間の大反感を買ったものだ。しかし、当時の生徒たちは家庭内暴力など手のつけられないようなワルばかりで、親たちも最後にすがる思いでわが子を戸塚に預けたはず。そんな甘ったれたガキを矯正するには鉄拳制裁しかない。戸塚はそれを知っているからあえて批判の矢面に立ち、どうしようもない子供たちを預かっていたのだ。スクールOBが「いい経験」と語る場面が戸塚の方法論の正しさの一面を物語る。


◆以下 結末に触れています◆


戸塚の事件がきっかけで、体罰を悪とみなす風潮が日本にはびこった結果どうなったか。学校の荒廃は「子供の人格を尊重する」過剰な人権意識が生んだと戸塚は断罪する。今では生きる意欲をなくした子供や成人まで受け入れ、社会復帰のサポートをしている戸塚。40歳のひきこもり男性が入所するにあたって、むしろ30年前のほうが、少なくとも大人社会に対する反抗のエネルギーが少年少女たちにあっただけましだったのではと思わせる作品だった。