こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ノルウェイの森

otello2010-12-13

ノルウェイの森


ポイント ★★
監督 トラン・アン・ユン
出演 松山ケンイチ/菊地凛子/水原希子
ナンバー 294
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ふっと息を吹きかけるだけでバランスを崩しそう、そっと指先で触れると壊れてしまいそう。恋人が自殺したショックに心を蝕まれたヒロインの繊細な精神状態を、意識が飛んだような眼ともどかしげな口元で表現する菊地凛子。わがままで気まぐれ、己の魅力が周りに影響力を持つのを知っている女子大生を、くるくる変わるコケティッシュな表情で演じる水原希子。青年をめぐる2人の女は、愛する者を亡くした喪失感に打ちひしがれ、「悲しみを悲しみ抜く」ことで現状から抜けだそうともがいている。しかし、肝心の主人公は人生の深く暗い森に迷い込んだまま出口を見つけようともしない。トラン・アン・ユン監督は村上春樹という重圧に押しつぶされそうになりながら、「100パーセントの恋愛小説」を「80パーセント苦悩の映画」にしてしまった。


自殺した親友・キヅキを忘れるために東京の大学に入ったワタナベは、キヅキの恋人・直子と再会。直子の20歳の誕生日にふたりは結ばれるが、直後に直子は精神科の療養所に入所する。その後、ワタナベは大学で緑というクラスメートと仲良くなっていく。


人を愛するのは美しいことである一方、相手の未熟な面や醜いところも受け入れる包容力が必要とされる。ワタナベは直子や緑に何か願い事をされても常に「もちろん」と答え、期待にこたえようとする。学生運動が活発だった時代、政治的思想や暴力的活動とは距離を置き静かに本を読んでいるワタナベは孤独ゆえの磁力を放っていたと思われるが、2人の女の間を行き来するワタナベがいくら「好きだ」と口にしても、そこからは強烈な恋愛感情が伝わってこなかった。


◆以下 結末に触れています◆


ワタナベと直子、緑には、常に「死」の影が付きまとい、自分が今生きている現実に対してどこか後ろめたい気持ちがあったのだろう。そんな幾分かの切なさや葛藤、辛さや息苦しさを内包していても、やはり恋愛やセックスは「生」を肯定する意味でも基本的には素晴らしいものであるはず。直子が自殺し、緑が好きと気づいてもなお、「ぼくは今どこにいるのだろう」とつぶやくワタナベの精神的な幼さには、いら立ちが募るばかりだった。。。