こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

人生万歳!

otello2010-12-15

人生万歳! Whatever Works

ポイント ★★*
監督 ウディ・アレン
出演 ラリー・デヴィッド/エヴァン・レイチェル・ウッド/パトリシア・クラークソン/エド・ベグリー・Jr./コンリース・ヒル/マイケル・マッキーン
ナンバー 295
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人生とは偶然と出会いの産物。理屈っぽい皮肉屋の自称“天才”の老人が孫ほどの年齢の娘と知り合ったのをきっかけに、ある意味完結していた日常にさざ波が起こる。やがて波は大きなうねりとなり、彼の生活を変えていく。映画は、そんな元科学者を中心に、アーティスト、俳優、ホームレス、ゲイ…といった雑多な男女が入り乱れ交差する。それが可能なのはやはりNYだから。NYを“卒業”して欧州に渡ったアレンが、再び人間の面白さに興味が戻った時、舞台はこの街しかあり得ないと感じたのだろう。彼らの少しヘンテコな生き方は、それらを許容する懐の深さを含めてNYの魅力として機能している。


妻と破局して気ままなひとり暮らしをするボリスの元に、若い家出娘・メロディが転がり込んでくる。“尺取虫”並みの頭脳しか持たないメロディは知性豊かなボリスに惹かれ、結婚すると言いだす。


ダンスミュージックオンリーのメロディにベートーベンの「第五」を聴かせ、「運命が扉を叩く」と告げるボリス。その直後にメロディを探していた彼女の母・マリエッタがボリスの部屋をノックする。物語の流れを加速させるテクニックは相変わらず冴えわたり、ふたり、いや3人の未来が急転することを予感させる。一方でテーマは拡散してボリスの手を離れてしまい、ボリスとメロディを別れさせようとしながらも写真の才能を開花させ、ボリスの友人たちと同棲まで始めるマリエッタに軸足を移す。さらにメロディの父親まで現れ、彼もまた古い考えを捨てて自らの心に潜む嗜好に目覚める。このあたりの展開にはアレン独特のテンポが復活しているが、人物の描写がやや雑になっている。


◆以下 結末に触れています◆


結局メロディは若い俳優と恋に落ちボリスとは離婚、投身自殺を図ったボリスは女性占い師とパートナーになる。そして新年を祝うパーティ、ボリスのアパートに集った登場人物たちが各々の半生を振り返る。見知らぬ他人ともとりあえず交流すれば今までと違った世界が開けてくる、「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」ということわざを思い出させてくれる作品だった。