こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

唐山大地震

otello2010-12-18

唐山大地震


ポイント ★★★*
監督 フォン・シャオガン
出演 シュー・ファン/チャン・チンチュー/リ・チェン
ナンバー 296
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


道路が大きく波打った直後に深い亀裂が走り、輪郭が歪んだ建物は次の瞬間土台から崩れ落ちる。呆然と立ち尽くす者、我を忘れて走り出す者、取り乱して泣き叫ぶ者、そんな地獄絵図の中でもコンクリート片に埋もれた人々を素手裸足で救出しようとする者がいる。映画は直下型地震にみまわれた街の情景をリアルに再現し、それを体験した人々の心情を観客に共鳴させようとする。愛する者に死なれた苦悩、生き残った後悔とわずかな希望、そして見捨てられた絶望。大震災がもたらした悲劇を大震災で収斂させるストーリーに現代中国の急速な近代化の歩みを重ねた構成は、壮大な一大叙事詩となっている。


'76年唐山を襲った大地震で、瓦礫の下敷きになったダーとドンの姉弟。ダーは片腕を切断するが一命はとりとめ、死体置き場で息を吹き返したドンは記憶を失ったまま解放軍幹部の養子となる。10年後、ダーは杭州に出稼ぎに、ドンもまた杭州の医大に進学する。


二者択一を迫られた母の「弟を助けて」の声は、確実にドンの耳に届いている。母に選ばれなかった思いがドンから言葉を奪い、心に恨みの烙印を押したはず。だからこそ恋人の子を妊娠し中絶を迫られたときも、「自分はわが子を見殺しにしない」決意が彼女にシングルマザーの道に進ませたのだ。一方で母は夫と娘を同時に亡くした強烈な悲しみに苛まれて生きているのに、胸にしまいこんでいる。この、ふたりの持つ二種類の喪失感が非常に繊細で、家族の絆とは何かを考えさせられる。


◆以下 結末に触れています◆


'08年、四川省で起きた地震の救援活動にダーとドンは駆けつける。そこで、娘の足を切断させた母親の姿を見て、ドンは初めて母がどんな気持ちで弟を助けたかを慮る。予想通り姉弟は再会を果たすが、その邂逅シーンは「描かないことで想像させる」まさに省略の美学。感動の涙は母娘の対面までお預けにし、母がどれほどドンを愛してやまなかったかをドンに知らせるという、見る者の感情を巧みにコントロールする高度な話法は、涙腺を刺激してやまなかった。