こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジーン・ワルツ

otello2010-12-24

ジーン・ワルツ


ポイント ★★*
監督 大谷健太郎
出演 菅野美穂/田辺誠一/白石美帆/片瀬那奈/南果歩/風吹ジュン/浅丘ルリ子
ナンバー 301
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


赤ちゃんが欲しいのになかなか授からない女、思わぬ妊娠をして中絶しようとする女、胎児に障害があっても産もうとする女、自分の子を他者に産ませようとする女とそれを受け入れる女。さまざまな立場の女が新たな生命の誕生を前にして意識を変えていく。映画はそんな妊婦の姿を描きつつ、わが子を望む女たちの繊細な心理を掬い取る。そこにまだ日本では医学界から異端視されている代理母出産にもスポットを当て、体外受精を手掛ける女医の権威の中での葛藤を交え、命とは何かを考える。


顕微受精・代理出産推進派の理恵は、大学で教鞭をとる傍ら小さな産科で4人の妊婦を担当している。その1人・50代のみどりは人工受精で双子を身ごもっているが、理恵の行動に不審を持つ同僚の清川は彼女の身辺を調査するうちに、理恵とみどりの関係を突き止める。


難解な最先端医療技術や倫理的論争をあえて薄め、胎児の成長と共に精神的に成熟していく妊婦たちをカメラにおさめていくことで、ドロドロとした権力闘争よりひとりの医師がすべての患者に必要な処置を施す医療という理想を目指す展開に昇華されている。理恵の奮闘、特に子宮の中でしか生きられない無脳症児に光を見せたいと願う母親が20センチほどの胎児の遺体と共に記念写真を撮る場面に、母となる厳粛な意味が凝縮されていた。並行して彼女が抱える秘密もまた徐々に明らかにされていく過程はちょっとしたミステリー仕立てになっていて、見る者の興味を引っ張っていく。


◆以下 結末に触れています◆


ただ、物語のクライマックスともいえる双子出産シーンは、3人同時に産気づいたり産院が台風に襲われて停電するなど、設定があまりにも幼稚。理恵は清川だけでなく老女医の助けを借りてなんとか難局を切り抜ける一方、彼女の遺伝上の子の父親も予想通りの人物で、あっと驚くようなどんでん返しはない。そのあたり少し物足りなさも感じるが、あくまでも真摯に出産に取り組む理恵の行動を追い続けて、命の奇跡・生の喜びが実感できる作品になっていた。