こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゴダール・ソシアリスム

otello2010-12-27

ゴダール・ソシアリスム FILM SOCIALISME


ポイント ★
監督 ジャン=リュック・ゴダール
出演 マチアス・ドマイディ/ドミニク・ドヴァル / ナデージュ・ボーソン=ディアーニュ/ルーマ・サンバール
ナンバー 305
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


寓意に満ちた引用の数々、カットの積み重ね、言葉が生みだす強烈なインパクト、過去と秘密が交錯するミステリアスな構成…。それらは常識を打ち破る破壊力となり、映画を鑑賞したいという期待を粉々に打ち砕く。こんな、見る者の存在を完全に無視した作家の自己満足、ゴダールだから許されるのか、ゴダールだからといって許してもいいのか。豪華客船上での様々な人物のスケッチに始まり、ガソリンスタンドの家族とTVクルーとの掛け合いを通じて欧州の行く末を、そして文明発祥の地をめぐって混沌とした我々の未来を暗示する。だが、その情報はごく断片的でパズルのピースをばらまいたかのよう。いくら直感を頼り、想像力を駆使しても、頭の中で全体像が完成することは絶対にない。


第一部では、乗客のなかに、スペイン内戦時代の黄金紛失事件のカギを握る老人が孫娘と乗船しているらしい。黄金の行方を追う捜査官も複数いる。70年以上前の事件、スターリンヒトラーなどの名前も取りざたされ、壮大な謎ときが展開するのかと思いきや、地中海から黒海に至る船上の出来事をただカメラに収めるのみで、なんのオチもない。「自由に虐げられた欧州」とは、行き過ぎた自由競争が格差や貧困を生んでいるという意味なのか。


QUO VADIS EUROPA”では、子供が選挙・被選挙権を持つべきだと主張しているようだが、民主主義はカネがかかるという主張だけが明白で、後は意味深長だが何が言いたいのかわからない独白の連続に終わる。


◆以下 結末に触れています◆


最終章は、欧州文明の源流ともいうべき土地をめぐるが、膨大なスローガンの数々はもはや単なるアジテーションに陥っている。民主主義と悲劇はアテネで完結したと映画は言うが、訳のわからん映像の羅列をもって“映画”と称するのはゴダールで完結させてほしい。まあ、「考えるな、感じろ」と言われそうだが。。。