こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

しあわせの雨傘

otello2011-01-12

しあわせの雨傘 POTICHE


ポイント ★★*
監督 フランソワ・オゾン
出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/ジェラール・ドパルデュー/ファブリス・ルキーニ、カリン・ヴィアール/ジュディット・ゴドレーシュ/ジェレミー・レニエ
ナンバー 8
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


結婚した女は家庭を守るという固定観念に疑問を持たなかったヒロインが、夫の急病で図らずも社会に出る。初めて見る外の世界、いきなり社長代理を任された彼女は対立を思いやりで和解に持ち込む。折しも女性が社会進出し始めた'70年代、敵は無理解な男たちだ。彼らと闘いながら、“人生は自分で切り開き自分の意志で進むもの”というメッセージを送る。しかし、映画はそんなありふれた主張に加えて、女は保護すべきか弱い存在ではなく、男の幻想など軽く踏みにじるほどしたたかで冷酷な生き物であることを描く。


組合との団交中に心臓発作を起こした夫に代わって急遽傘メーカーの社長代理になったスザンヌは、早速スト中の工場に赴き、旧知の市長・ババンの助力で争議を解決する。さらに息子のローランと娘のジョエルを入社させると、工場は順調に稼働しはじめる。


労働者を搾取しようとする夫に代わって、スザンヌの経営手法は従業員を大切にしてやる気を引き出そうとするもの。おかげで業績は上向き、スザンヌも働く醍醐味を噛みしめて活き活きとした表情に変わっていく。このあたり、スザンヌを古き良き時代の経営者に仕立て上げて、21世紀の行き過ぎた資本主義とグローバリゼーションを批判しているのかと思いきや、フランソワ・オゾン監督の狙いは別のところにあった。


◆以下 結末に触れています◆


スザンヌは決して貞淑な妻として過ごしてきたのではなく、若き日にババンと情事を楽しんだ上に、複数の男と浮気を重ねている。知らぬは夫を始め男たちばかり。特に、ローランをわが子と勘違いしたババンが勝手に舞いあがってしまうシーンは、女には己の子が識別できるが、男は女の言葉を信じるしかない事実を強烈に揶揄する。やっぱり男にとって女は永遠の謎なのだ。そして、ババンの夢を砕いたスザンヌは、今度は国会議員に立候補してババンと議席を競う。進歩派のババンでさえたたきつぶそうとするスザンヌフェミニズムと博愛主義。彼女の変身ぶりを見ていると、運命なんてちょっとしたきっかけと勇気で変えられるとつくづく感じる。。。