こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ウッドストックがやってくる!

otello2011-01-19

ウッドストックがやってくる!TAKING WOODSTOCK

ポイント ★★*
監督 アン・リー
出演 ディミトリ・マーティン/ダン・フォグラー/ヘンリー・グッドマン/ ジョナサン・グロフ
ナンバー 14
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


変化に乏しい田舎の日常、老人ばかりの街。故郷の暮らしにウンザリしている若者が、町おこしのために一大コンサートを開催しようとする。そして根回しと交渉に奔走しさまざまな困難を乗り越えていく過程で、彼はかけがえのない友情と生きている実感を覚えていく。もはや事態は自分ではどうしようもない、ならば流れに身を任せる肩の力が抜けた姿が新鮮。頑張っているけれど頑張りすぎない、辛いことがあっても顔に出さない、そんな飄々とした表情はそのまま彼の人生を象徴しているようだ。だが映画は主人公の成長を置いてきぼりにし、彼の手に負えなくなったビッグイベントに参加した人々をスケッチする。


母親が経営するさびれたモーテルを手伝うエリオットは、会場候補地からドタキャンされた音楽イベントを誘致する。早速主催者と意気投合、話はとんとん拍子で進むが地元住民の猛反対に会う。


舞台は1969年、ベトナム戦争に倦んだ若者たちが50万人、LOVE&PEACEを求めて大挙街にやってくる。しかし、トラブルを起こそうとする不埒者はおらず、純粋にこの音楽祭を体験するのを楽しんでいる。彼らは音楽よりもむしろその時間を多くの見知らぬ仲間と共有することが目的。自由で開放的で誰とでも仲良くなれ、カネや名誉より人間の心の触れ合いを大切にしたムーブメントが美しい。


◆以下 結末に触れています◆


映画はことさらエリオットが感じる不安や興奮を強調したりせず、エリオットは当事者でありながら傍観者のような描かれ方をする。この距離感がエリオットに感情移入するのを難しくさせてしまう。それはこの街に集まったけれども音楽を一度も聞かなかったほとんどのヒッピーたちと同じ感覚を映画の観客にも味あわせようというアン・リー監督の狙いなのだろうか。あえてクライマックスに向かって盛り上げる演出をせず、エリオットと両親の関係に収斂させていく手法は鮮やかだった。まあ、爽快なカタルシスはなかったけれど。。。