こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん

otello2011-01-29

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん

ポイント ★*
監督 瀬田なつき
出演 大政絢/染谷将太/三浦誠己/山田キヌヲ/鈴木卓爾/田畑智子/鈴木京香
ナンバー 24
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


嘘つきの少年が作り出した虚構と、壊れた心を封印して生きる少女の妄想。ふたつ不思議な世界観が衝突し融合すればユニークなエピソードが誕生するはず、だった。確かにポップな映像と音楽は一風変わった少年少女の間に芽生える愛を感性豊かに描いている。しかし、そのままごとのようなシーンは貧困な想像力から生まれた絵空事で、監督が表現術で遊んでいるにすぎない。犯罪被害者がトラウマを引きずっているのはよいのだが、それが現在進行中の犯罪とどうリンクするというのか。ただ、閃いたアイデアを羅列しただけの設定は登場人物の感情には程遠く、インパクトを狙いすぎて完全に空振りしている。


小学生姉弟失踪と連続通り魔殺人事件が起きている街に、みーくんが戻ってくる。彼はまーちゃんの部屋に強引に上がり込み、10年ぶりに再会を果たす。ふたりはかつて幼児誘拐事件の被害者同士で、まーちゃんはみーくんが帰ってくるのをずっと待っていた。だが、まーちゃんの部屋には失踪した姉弟が監禁されていた。


みーくんはいちいちカメラ目線で「嘘だけど」と、自分の発言に突っ込みを入れる。周囲の人間だけでなく己にも嘘をついて現実から目を逸らす。それは幼児期の恐怖体験が生んだ自己防衛術なのだが、何度も繰り返されるとバカにされているような不快感を覚える。一方のまーちゃんも記憶を改竄して精神の均衡を保とうとしている。彼女が誘拐した姉弟が厚遇されているのは、まーちゃん自身が自分が誘拐された時も怖いことは何一つなく快適だっと思いこみたいのだ。映画はふたりの今と並行して監禁時に起きた悲惨な事件も挿入されるが、地に足のつかない現在と血塗られた凄惨な過去の対比が有機的に機能していないのが残念だ。


◆以下 結末に触れています◆


さらに第3の拉致被害者に刑事や精神科医などを絡めるが、そのわざとらしい演出は物語に奥行きを持たせるどころか浮薄にするのみ。若手監督の独りよがりを誰も止めなかったのだろうか。。。