こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あしたのジョー

otello2011-02-15

あしたのジョー


ポイント ★★*
監督 曽利文彦
出演 山下智久/伊勢谷友介/香里奈/香川照之/勝矢
ナンバー 38
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


鎖骨は浮き、頬はこけ、腰回りは枯れ木のごとく痩せこけていても、落ちくぼんだ眼窩から発せられる鋭い光が燃え盛る命の炎を象徴する。ストーブに囲まれたフロアの上で減量着を着こみ、練習後は倉庫に自分を閉じ込めて水への誘惑を断つ。そんな、ボクシングにおける厳しい減量をリアルに再現した伊勢谷友介の気迫は見事。すでに贅肉などどこになく、まるで水分はもとより骨まで削ったかのような肉体は美しさを通り越して死相すら漂わせていた。さすがに計量シーンはCGだが、ここまで己を追い込む役者根性に圧倒された。


ドヤ街に流れてきたジョーは、元ボクサーの段平に素質を見出されるが、大喧嘩で少年院に収容される。そこでプロボクサーの力石に軽くいなされ、ボクシングの練習を始める。そして力石と試合、勝敗はつかないまま力石はジムに戻り実績を重ねていく。


「オレはどこにいたって自由」と少年院で言い放つジョーは典型的な風来坊で、孤独を愛し誰にも心を許さない。ボクサーを志願するまでは親が悪い世間が悪いとひねくれていたのに、本気で打ち込めるもの、気にかけてくれる人々、乗り越えるべきライバル、それらから人は一人で生きているのではないことを学ぶ。その過程も映像の持つ雰囲気も、原作・アニメのイメージをほぼ忠実になぞっているが、この作品が醸し出す「昭和の古臭さ」と、イケメン俳優が演じるキャラクターのアンバランスは、もはや時代劇のよう。唯一、段平を演じた香川照之が物語にしっくりなじんでいた。


◆以下 結末に触れています◆


やがて力石との宿命の対決、ジョーは敗れるが力石は試合直後に息を引き取る。無防備にパンチを打ち合って、生まれて初めて理解しあえる友と出会えたと思った瞬間に、その友を無くしてしまうという運命の皮肉。拳を交えることでしかコミュニケーションを取れないジョーの不器用な生き方は、ニヒルな切なさと研ぎ澄まされた孤高を兼ね備えているはずたが、山Pにそれを表現するだけの器量がまだ備わっていなかったのが残念だった。