こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

悪魔を見た

otello2011-03-07

悪魔を見た

ポイント ★★★*
監督 キム・ジウン
出演 イ・ビョンホン/チェ・ミンシク/オ・サナ/チョン・グックァン/チョン・ホジン
ナンバー 57
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


泣き叫ぶ女を切り刻み、その感情を弄び、怒りと絶望を楽しみながらゆっくりと殺す。まるで被害者の怨念を貪り食うことでエネルギーを得ているかのような歪んだ男をチェ・ミンシクが怪演。レクター博士を思わせる狂気と瞳の奥に宿る知性、ただ心が血に飢えているだけでなく、体から発散する強烈な腐臭が人知を凌駕した邪悪を体現している。その悪意は同じ欲望を持つ者に感染し、彼に復讐を誓った男さえも同じ色に染めていく。映画は連続猟奇殺人犯と工作員の葛藤を通じ、人の胸に巣食う悪の本質に迫る。


送迎バスの運転手・ギョンチョルは雪道で立ち往生している女を拉致・惨殺・解体する。彼女の婚約者で国家情報部員のスヒョンは独自捜査でギョンチョルを見つけ、女子生徒をレイプするギョンチョルの手首をへし折った上、カネを渡して姿を消す。


スヒョンは少しずつギョンチョルを痛めつけて婚約者の恨みをはらそうとする。ギョンチョルをGPSで追跡し、猟奇的犯行に及びそうになると現場に現れ失神するまでぶちのめすが決してとどめは刺さない。しかし、他人の恐怖や苦痛を糧として生きているギョンチョルにリンチは効き目がなく、まったく抑止力にならない。それどころか同様の犯行を繰り返すギョンチョルを相手に、スヒョンは抑え込んでいた暴力の衝動を解放させるのだ。銃を使うのではなく、殴り、蹴り、絞め、斬る。ギョンチョルの生身の肉体を苛む感触にスヒョンが毒されていく過程が、背筋に生温かい吐息をかけられるかのごときおぞましさで描かれる。


◆以下 結末に触れています◆


結局、スヒョンはギョンチョルを最も残酷な方法で処刑するが、そこには達成感など微塵もなく、見つけたのは底なしの虚無。それは、婚約者が与えられた無念を超越した苦しみをギョンチョルに味あわせようとしたのに、スヒョンはその壁を超えられなかったという敗北感だ。思わず嗚咽を漏らすスヒョンの姿は、望んで悪魔にはなれない普通の人間の弱さを象徴していた。