こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブンミおじさんの森

otello2011-03-09

ブンミおじさんの森 Loong Boonmee raleuk chat


ポイント ★★
監督 アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演 タナパット・サーイセイマー/ジェンチラー・ポンパス/サックダー・ケァウブアディー/ナッタカーン・アパイウォン
ナンバー 60
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


緑濃いジャングルの深淵、そこは死者と精霊が帰っていくところ。命が尽きかけた人間は穏やかな気持ちで、人生に迷っている者は吸い寄せられるように足を踏み入れていく。もはや現世との境界は曖昧になり、生老病死の四苦から解放された心が浄化されていく。映画は、タイ奥地で農園を営む男が最期の未練を断つ過程で、人の死もまた自然の摂理であると語りかける。ところが、恐ろしく緩慢な話法はイマジネーションを刺激するには程遠く、理解を越えたメタファーの数々には戸惑うばかりだ。せめて森の木々に瑞々しい生命力が感じられるほどの深い美しさが映像にあれば印象は違ってきたと思うのだが…。


死期が迫っていると悟ったブンミは義妹のジェンとその息子・トンを呼び寄せる。3人が夕餉の食卓を囲んでいると、19年前に死んだ妻・フエイの幽霊が現れ、さらに行方不明だったブンミの息子・ブンミンが猿の精霊の姿をして近づいてくる。


霊は場所ではなく人に執着するとフエイはブンミに告げる。つまり誰かが覚えている限り死者の魂は生き続けているということ。ブンミはかつて共産軍の兵士をたくさん殺したと告白するが、やはりその亡霊にも苦しめられてきたのだろう。自分の病気をカルマととらえているあたり、戦場であっても人を殺した罪の意識にずっと苛まれていたに違いない。しかし、そんな精神的苦悩や難病による肉体的苦痛もジャングルの霊気が癒してくれる。ブンミは残し少ない力を振り絞って森の奥の洞窟に向かい、己の生を全うする。


◆以下 結末に触れています◆


まるで夢の中で夢を見ているごとき不思議な体験。それは「インセプション」風の挑発に満ちたものではなく、森羅万象が時間の概念を超越してたゆとう感覚だ。ただその背景にある仏教的な思想や風習が馴染みのないものには敷居が高く、最後までこの作品世界についていけなかった。仏門に入ったトンがジェンと食事に出るときに、彼らの分身がテレビを見ている観念的なラストシーンも含めて。。。