こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛しきソナ

otello2011-03-11

愛しきソナ


ポイント ★★*
監督 ヤン・ヨンヒ
出演
ナンバー 55
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


街を散策し、ボーリングに興じ、ソフトクリームをなめ、家族で食卓を囲む。世界中どこにでもあるような一般庶民の日常風景。報道を通じ、指導者を熱狂的に礼賛する民衆と食糧難の貧困層といった両極端ばかりを見てきた日本人の目には、多少の不満はあっても切迫感のない暮らしぶりは新鮮に映る。独裁国家といえども、住民は皆我々と変わらない血の通った人間、いや、むしろ人と人のつながりを重んじる分日本より濃やかな人間関係に恵まれているのではないかと思わせる。映画は、北の国籍を選んだ在日コリアンが見た、かの地の人々の素顔を通じて、自由の大切さを訴える。


映像作家のヨンヒは北朝鮮に“帰国”した3人の兄たちの家族を訪ねるためたびたびピョンヤンに渡航、姪のソナの成長をビデオに収めていく。


両親が朝鮮総連の幹部だったヨンヒは大阪の朝鮮学校で教育を受けたが、一方で日本の豊かさにどっぷりと浸かっている。ピョンヤンの家族たちは仕送りに頼り訪朝するたびに手渡す現金を当てにしている。このあたりは経済格差に過ぎず、北の人民は日本で強調されるほど異質な存在とは思えない。だが、ヨンヒと共にソナ一家が外貨レストランに行くシーンで、メニューを見ても食べた経験のない品物を注文できないソナの姿は、命じられ与えられることに馴れ、自分の頭で考え行動することを禁じられた北朝鮮の人々の悲劇を鮮やかに描写する。また、ソナが体制に対して不平と誤解されかねない発言の録画をNGにする場面では、祖国の本質を見抜いていながらそれに気付かぬふりをしなければならないソナの葛藤が伝わってくる。


◆以下 結末に触れています◆


6歳のときに兄たちが北に渡ったヨンヒにとって、もしあの時兄たちと一緒に行っていたなら、ソナの人生は彼女自身がたどったかもしれない道程。日本に残って様々な職業を経験し“選択の自由”を謳歌したヨンヒと、北朝鮮で生まれ育ち未来のオプションが極端に少ないソナ。大学で英語を学ぶまでになったソナが、その英語力を体制のためではなく、世の中をよりよくするために使う時が一日でも早く来るのを願うばかりだ。