こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

わたしを離さないで 

otello2011-03-29

わたしを離さないで NEVER LET ME GO


ポイント ★★★
監督 マーク・ロマネク
出演 キャリー・マリガン/アンドリュー・ガーフィールド/キーラ・ナイトレイ/シャーロット・ランプリング
ナンバー 75
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


感情があり、他人を思いやる気持ちもあり、考えて行動する知能もある。なのに体は自分のものではない。それでも彼らは誰かを助けるためだけの人生を粛々と受け入れる。もっと生きたいという本能を抑えつけて。物語は臓器提供者として生まれ育てられた子供たちの日常を丁寧に掬い取り、はたしてクローンにも魂があるのかと問いかける。冷たく沈んだトーンの映像と哀切を帯びた音楽が、彼らの苦悩よりもあきらめ、夢よりも先のない未来を象徴し、救いのない物悲しさが胸を締め付ける。殺されるために生かされる、そんな運命に逆らおうとしない心情が痛いほど切ない。


田園地帯にある寄宿制学校の生徒・キャシーはトミーに恋をするが、親友のルースにトミーを横取りされてしまう。成長した3人は同じ学校に進学、恋人同士のトミーとルースを気にしながら、キャシーは介護士になる決意をする。


子どもたちは新任の先生に、将来臓器ドナーとなるのを義務付けられていて長生きはできないと教えられる。その時は言葉の意味がよく理解できなくても、成人するころになると「真剣に恋をすると臓器提供が猶予される」噂に縋りつこうとする。肉体を切り刻まれる恐怖とその先の死から、“お願い”の形で自らの命を長らえようとするコピーたち。一方で学校を訪れた“マダム”や出入り業者の、キャシーたちに送る蔑むような視線は、人間がクローンを下等な生き物ととらえている証拠。映画はあえてクローンに対する差別や抑圧を描かない。だがそれは、クローンが完全な管理下にあることを明確にする。だからこそクローンには逃亡や武力闘争といった抵抗の発想がないのだ。


◆以下 結末に触れています◆


大人になったキャシーは介護士として病院に勤務し、数度の“提供”でやつれ果てたルースと再会、ふたりはトミーに会いに行く。そして、ルースが “終了”するとトミーとキャシーは自らのアート作品を持って“マダム”を訪れる。そこでかつての校長から知らされた衝撃の真実。わずかな希望すら許されないコピーたちの姿に、自由の大切さを再認識させられた。