こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇

otello2011-04-01

大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇

ポイント ★★★
監督 本田隆一
出演 竹野内豊/水川あさみ/樹木希林/片桐はいり/荒川良々/橋本愛/でんでん/山里亮太/柄本明
ナンバー 76
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


長い同棲生活ゆえに、相手に対するときめきがまったくない新婚夫婦。その緊張感のなさからにじみ出る緩みきった空気が腹をくすぐる。他愛のないことで口論しても結論を曖昧にする、長年連れ添った男女のごとき落とし所が絶妙だ。そんな、変わり映えしない日常にどっぷり浸かった倦怠期のカップルが“地獄ツアー”に参加する。ところがシュールなシチュエーションにも関わらず、痴話げんかを繰り返し、せっかくふたりで温泉に入っても「話すことがない」と口にするシーンがさらなる脱力感を醸し出す。


スーパーの占い師に“地獄ツアー”を勧められた信義と咲は面白半分に申し込む。森の一本道に放り出されたふたりは、そこから旅館まで徒歩で向かう道中、決して振り返ってはいけないという忠告を受けていたが、パレードの賑やかな音につい後ろを見てしまう。


突然荒涼とした採石場のような場所に投げ出され、赤い顔の怒ったオッサンに追われるふたりは、青い顔のヨシコに助けられて旅館まで送ってもらう。この赤い顔の男たちが唯一地獄を連想させる造形だ。肉体的苦痛は全力疾走や階段を延々昇る程度のユルさで、しかも場面場面で交わされる信義と咲の会話の内容がことごとく彼らの置かれている状況からズレていて笑わせてくれる。ここでは荒川良々みたいな、フツーの映画では変人の役ばかり演じる俳優のほうが、むしろまともに見えてしまう。その奇天烈な世界観の、ディテールに至るまでの作り込みが素晴らしい。


◆以下 結末に触れています◆


結局、この地獄は誰にとっての地獄だったのか。ヨシコが別れ際、咲に「きっといつか私を産んでください」と言うが、青い顔の人たちは現世への生まれ変わりを待つ魂なのだろう。一方、赤い顔の人たちはその資格を失い、地獄をさまよい続ける運命。現実に戻った信義と咲は以前よりお互いを思いやる気遣いを身につけているあたり、ナンセンスなギャグに見せてほろりとさせてくれる、なかなか欲張りな作品だった。