こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

昼間から呑む

otello2011-04-02

昼間から呑む

ポイント ★★★*
監督 ノ・ヨンソク
出演 ソン・サムドン、キム・ガンヒ、イ・ラニ、シン・ウンソブ
ナンバー 78
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


明るいうちから酒を飲んでもロクなことはない。暇つぶしに飲み、嫌な記憶を忘れようと飲み、感傷に浸るために飲み、勧められて断り切れずに飲む。一方で酩酊状態のおかげで不運な出来事にあってもそれほど腹も立たず、なんとなく酒のせいにすれば己を納得させられる。映画は傷心旅行に出た男のさまざまな珍妙な体験を通じて、不幸の感覚さえ麻痺させてくれるアルコールの効能を説く。見知らぬ人との出会いの中で築かれるぬる〜い人間関係と、つかみどころのないゆる〜い雰囲気。主人公は結構悲惨な目に遭っている。だが、その口当たりがまろやかな銘酒のような味わいを残す映像は、観客までもどこか夢見心地にさせてくれる。


恋人にフラれたヒョクチンは友人たちにチョンソンに誘われるが、ドタキャンされひとりうらぶれた田舎町をぶらつく。友人が手配したペンションにつくと、無愛想なオッサンが管理人をしていた。


ペンションはケータイが圏外の辺鄙なところで、近所に雑貨屋があるだけ。酒を飲みテレビを見る以外に何もすることがない。昼間言葉を交わした隣室の女と一緒に飲もうとワインを持って部屋を訪ねると男が出てきたり、2時間に1本のバスも女のせいで逃したりと、ヒョクチンにはまったくツイていない。冬のビーチでカップ麺をすすりながら焼酎を口にするシーンの自虐的なトホホ感が、ヒョクチンのおかれた現状と彼の気持ちを象徴していた。


◆以下 結末に触れています◆


その後もヒョクチンは昏睡泥棒に財布とズボンを奪われたり、親切なオッサンの厚意を無にしたりしつつも、なんとか友人の先輩が経営するペンションにたどり着く。そこでもバス内で軽くあしらったおばさんと再会したり、友だちの結婚話を早とちりする。その、自分では経験したくないが、他人ならば笑ってしまうような酒の上での失敗の数々が、絶妙のさじ加減で見る者の腹をくすぐる。終始ヒョクチンのバツの悪さがスクリーンからにじみ出し、その場に居心地の悪そうな彼に思わず手を差し伸べたくなった。