こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路 

otello2011-04-12

ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路 NANNERL, LA SOEUR DE MOZART

ポイント ★★
監督 ルネ・フェレ
出演 マリー・フェレ/マルク・バルベ/デルフィーヌ・シュイロット/ダヴィド・モロー/クロヴィス・フーアン/サロメ・ステヴナン
ナンバー 87
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


音楽に囲まれた環境で育ち、優れた技量にも恵まれ、自らも作曲の道を志すヒロイン。しかしその夢は“女だから”という理由で簡単に奪われてしまう。物語は、神童と呼ばれる弟を持ったゆえに生涯日蔭に甘んじた姉の、抑圧された青春を描く。女がまだ男より劣ると考えられていた中世、女は男に従い、人生を左右される。そしてそれを当然と受け入れてしまう。従順さこそが女の道と定義されていた時代、“自由”の概念さえ持ち得なかった当時の女たちの姿に、現代に生きる幸福と幸運を感じずにはいられない。18世紀後半の衣装や風俗習慣を再現した映像が美しい一方、ろうそくの明かりが頼りだった夜の暗さがいっそうの物悲しさを誘う。


フランス演奏旅行を続けるモーツァルト一家は馬車の修理のために修道院に立ち寄る。長女のナンネルはそこで幽閉中の王女・ルイーズと親しくなり、ヴェルサイユにいる憧れの人への手紙を託される。


弟・ヴォルフィの作曲した協奏曲を聴衆の前でクラヴィアを弾きながら歌うナンネル。彼女の脳裏にはより甘美な曲想が浮かんでいる。だが、ヴォルフィだけに才能を認める父は、ナンネルに作曲はおろかバイオリンに触れることすら許さない。深まる孤独感と疎外感の中、宮殿内で知己を得た王太子・ルイに惹かれていく。唯一自分の旋律に心を開いてくれる存在、彼もまた宮廷内に繋がれた虜なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


ただ、このナンネルと王太子の関係は、ヴォルフィがマリー=アントワネットに“プロポーズ”した故事の裏返しのアイデアなのだろうが、ふたりの間に「禁じられた恋」にお約束の燃え上がるような想いに乏しくて一向に盛り上がらない。実在の人物とはいえ、フィクションを交えてナンネルを語るのならば、もう少し飛躍があっても許されたはずだ。パリを去る際、自筆の楽譜を暖炉の火にくべ、ヴォルフィにオペラの作曲を命じる父の言葉をうつろな目で聞いているナンネルの表情からうかがえるのは、女に生まれた運命へのあきらめと呪いのみ。もう少し希望につながるファクターが欲しかった。