こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

一枚のハガキ

otello2011-04-15

一枚のハガキ


ポイント ★★★
監督 新藤兼人
出演 豊川悦司/大竹しのぶ/六平直政/大杉 漣/柄本 明/倍賞美津子
ナンバー 85
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


前線に向かう仲間から預かったハガキと彼のメッセージを託された男は、約束を果たすために未亡人のもとを訪ねる。貧乏だったけれど楽しかった夫との思い出を偲ぶ彼女と、軍隊での暮らしを語る男。凡百の作品で描かれてきた、生を愛おしむ美しさと死なねばならなかった無念を通じて戦争の愚かさ批判する姿勢を、この映画はじっくりと構えたカメラに収めることで強烈に浮き彫りにする。そこには扇情的な音楽はなく、ただ囲炉裏をはさんで向き合って座る、淡々と言葉を吐き出す男と感情を抑えきれない女の姿があるだけ。さらに第三者を闖入させて、死がごく当たり前に身近だった時代で生き残るのは単に運が良かったからなのかと問いかける。


太平洋戦争末期、“中年兵”として召集された松山と森川。森川は、妻から届いたハガキを松山に渡し、「このハガキは読んだ」と伝えてくれと言い残してフィリピンに送られる途中戦死する。森川の妻・友子は夫の訃報を受けた後、夫の弟と再婚するが彼もまた遺骨箱に入って帰ってくる。


戦後、電気も水道もない家にひとり住む友子は村の団長に口説かれているが、妾は嫌とつれなくしている。突然現れた松山に団長は面白いはずはない。蹴り殴り投げる、マンガのコマのようなカットの連続、せっかく殺し合いの世の中は終わったのに、友子をめぐって争う男たち。しかし、「お国のため」に銃を手にするより、目の前の女のために命がけで闘う方がよほど人間らしく意義があると、暴力を戯画化し誇張した大喧嘩のシーンは逆説的に訴える。


◆以下 結末に触れています◆


中年兵の中で、誰が戦地に送られ誰が内地に残るかはくじで決められる。選ばれる=死、くじで生死が決まってしまう命の軽さの自覚は、戦争という大きな時代のうねりに飲み込まれるというよりも、運命には逆えない諦観をもたらす。それでも、絶望も味わい尽くせば後に来るのは希望、ひとりで背負いこめば苦労でもふたりで背負えば勇気になる。家の焼け跡に作った畑に麦の穂がたわわに実るラストシーンは、人間の心の強さを信じているようだった。それは戦争を経験しなおその体験を語り継ごうという新藤監督の遺言にも似た思いなのだ。