こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

終わらない青

otello2011-04-16

終わらない青

ポイント ★★*
監督 緒方貴臣
出演 水井真希/小野孝弘/三村純子/池崎みなみ/八木亜由美/樋口海生
ナンバー 88
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自分は穢れてしまった。傷つき疲れ果て死んでしまいたいと願う少女は、苦痛に満ちた思いを胸に地獄のような日々を送っている。誰も助けてくれない、誰もわかってくれない。いや、それ以上に誰にも打ち明けられない秘密が彼女の心に大きな重石となってのしかかる。異常な家族、でもそこしか帰る場所がない。映画は、そんな運命に刃向かう術を知らないヒロインが、ほんのわずかに芽生えた希望に縋りつこうとする姿を描く。凍りついた食卓で一家3人が食事をとる場面がこの家に潜む狂気を象徴する一方、抜けるような青空の下で真っ赤な傘をさす、その色彩のコントラストの鮮やかさが彼女の苦悩の深さを物語る。


受験を控えているにもかかわらず生理が来なくなった楓は、学校では貧血気味で友だちからの誘いも断ってばかり。家では鬱気味の母と高圧的な父のせいでびくびくしながら暮らしている。やり場のない辛さに、楓はつい左手首にカッターナイフの刃を立ててしまう。


唐突に投げ出されるこの一家の真実が衝撃的だ。ベッドに横たわる父の横にピンクのジャージを着た楓が寝そべると、父は楓のジャージをはぎ取り、愛撫もそこそこに自らの下半身を楓の股間に沈めていく。楓はまるで父との交わりが義務であるかのごとく無言で受け入れ、なすがままになる。気持ちを殺してやり過ごすしかない、逃げ場のないところに追い詰められた彼女のヒリヒリする痛みが映像から伝わってくる。


◆以下 結末に触れています◆


やがて妊娠がはっきりすると、父は楓に暴行を加え流産させようとする。楓は禁忌の子と知ってもなお、お腹に宿る命をいとおしむ。とうに正常ではいられないほど精神はバランスを崩しているはず。それでも健気に我が子に愛を向ける様子は痛々しくて見ていられない。そして、その歪んだ希望すら失ってしまった楓は、もはや己に生きる価値はないと思い込んでしまう。わが身を愛せない彼女の絶望が切ないまでにリアルだった。雑音の多さとシーンごとにブラックアウトするのには閉口したが、デジタルカメラは繊細な感情の襞を見事にとらえていた。