こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミルク SUT

otello2011-04-28

ミルク SUT


ポイント ★★*
監督 セミフ・カプランオール
出演 メリヒ・セルチュク/バシャク・コクルカヤ/リザ・アキン
ナンバー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ひとり息子の恋にほおを緩める母親は我が子の成長が楽しくてたまらず、好意を寄せる女の子のことを聞きだそうとする。一方、母の恋に息子は強烈な嫉妬を覚え、相手の男に殺意すら抱く。母一人子一人、父親がいない環境で仲良く暮らしていたはずの2人の関係に初めて入る亀裂。映画は、多感な年ごろになった少年が外の世界の出来事に触れていくうちに大人になっていく姿をとらえる。カメラはじっと固定されたまま登場人物をフレームに収めるだけ。その冗長とも思える長まわしのカットは、ゆったりと流れる時間という芳醇に満ちている。


父を亡くしたユスフは母の商売を手伝いながら詩を書いては雑誌に投稿している。ある日、少女への憧れを綴った詩が掲載され有頂天になっていると、徴兵検査の通知が来る。そんな折、商売道具のバイクを修理した縁で、母は駅長と仲良くなっていく。


冒頭、沸かした牛乳に呪文を書いた紙きれを投げ込み、その上に女を逆さ吊りにすると、女は口から蛇を吐き出す。蛇は吉兆なのか凶兆なのか。キッチンに忍び込んだ蛇を母が異常に脅えるところを見ると、やはり不吉の象徴なのだろう。しかし、ユスフが気にも留めないところを見ると、迷信に対する感受性が親世代とは違ってきている。幼いころは山奥の小屋のようなところに住んでいた彼が、町で文明に触れ食事中も手放さないほどすっかり本の虜になっている。因習からの解放と国民の教化こそが西欧化政策を取るトルコの未来を示唆していだ。


◆以下 結末に触れています◆


その後、母の恋人が家に来たり、ユスフがバイク事故に遭ったりするが、映像はあくまで寡黙でセリフは少なく音楽もない。その分、風のそよぎ・植物のざわめき・小鳥のさえずりといった自然の音が非常に饒舌で、人々の生活を効果的に彩る。そこに劇的な展開があるわけではなく、刺激的なシーンがちりばめられているわけでもない。ただ、ハリウッド的な作品の対極をなすような映画作りの姿勢に別の意味での豊かさを感じた。