こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー

otello2011-04-30

レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー
REYKJVIK WHALE WATCHING MASSACRE

ポイント ★★*
監督 ジュリアス・ケンプ
出演 ガンナー・ハンセン/ピラ・ヴィータラ/裕木奈江/テレンス・アンダーソン/ミランダ・ヘネシー
ナンバー 100
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


環境保護の名のもと「正義」を振りかざす偽善者が憎い! 捕鯨を家業としてきた一家が、生業を否定され、赤貧生活に甘んじている姿が生々しい。クジラを取れず、今は観光客相手の土産物で細々と生計を立てているが、もはやその暮らしも破たん寸前、そして怒りの矛先はホエールウォッチングなどという平和ボケした観光客に向けられる。きっと彼らにとって外国人=反捕鯨で、すべからく憎悪すべき対象なのだろう。「Green Peace」を「Green piss」と吐き捨てるように口にするシーンが彼らの憤怒を物語る。弱々しい太陽、どんよりとした海、湿った重い空気…。深刻な経済危機に陥っているアイスランドの雰囲気が映像から滲みだす。


10人の観光客を乗せた遊覧船はクジラのえさ場に出かけるが、事故で船長が大けが、操縦不能になる。観光客たちは救出に来た小舟で別の船に避難、だが、そこで待ち受けていたのは不気味な兄弟と母親の3人の殺人鬼たちだった。


白人のオバハン3人組、日本人老夫婦とガイド、フランス人の酔っ払い、個人参加の若い女といった観光客たちは人を見下したような意地の悪さを秘めていて、どこか場末のお化け屋敷ツアーのごときチープな香りが漂う。殺人一家が2人の女を襲うと、日本人のオッサンは妻をほったらかしにして海に逃げ、すぐに銛の餌食になる。そこからは一家が観光客をひとりずつ殺していくのだが、黒人男を除いて観光客たちはみな闘おうとせず自分だけは助かろうと必死になる。このあたりの展開は残酷さよりも、むしろ彼らが人間の本性をむき出しにしていく過程が奇妙なおかしさを誘う。また殺害場面のスプラッター表現がユーモラスで、つい笑ってしまう。


◆以下 結末に触れています◆


裕木奈江扮する日本人ガイドは、雇い主のおばさんを犠牲にした上、小舟で逃げてしまい、一緒に船に乗ったフランス人も途中で見捨てる。この、一見かわいい顔してしたたかな計算をしている女が、実は一番怖かった。最後に1人だけ生き残った彼女は飛行機の中で他人の名を名乗っているが、要するに雇い主の身分と財産を乗っ取ったということなのか。くどくどした説明で整合性を持たせるより、その思い切った省略がかえって心地よかった。。。