こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

阪急電車 片道15分の奇跡

otello2011-05-05

阪急電車 片道15分の奇跡


ポイント ★★★*
監督 三宅喜重
出演 中谷美紀/戸田恵梨香/南果歩/谷村美月/有村架純/芦田愛菜/小柳友/勝地涼/玉山鉄二/宮本信子
ナンバー 107
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


志望校合格は絶望的と言われた女子高生が自棄になって恋人に抱いてくれと頼むが、男は決して手を出さない。そんな、どうしようもないほどアホやのに、彼女自身より彼女を大切に思っているカレの優しさが胸を熱くする。身近な人を気遣う、その気持ちはひと言かけてあげるだけ、話を聞いてあげるだけ、そっと手を差し伸べてあげるだけで伝わるのだ。物語は死にたいほど辛くはないけれどそれぞれしこりを抱えて生きている人々が、人と人の触れ合いに癒されていく過程を描く。上品だが驕らず、人情豊かだが他人の領域にまでズケズケと踏み込まない、その距離感をわきまえたバラエティに富んだキャラクターが心地よい。


婚約者を後輩OLに寝とられた翔子は結婚式に真っ白なドレスで臨み復讐を果たすが、やりきれなさを隠せない。だが、電車に乗り合わせた時江に顛末を話し、吹っ切れる。主婦の泰江はPTA仲間のオバサン連中にうんざりしながらも誘いを断れなず悶々としている。


阪急今津線の、都心に近いのに豊かな自然に囲まれている環境が生み出す柔らかい空気が濃厚に凝縮されている。映画はこの電車に乗り合わせた人々が織りなすエピソードを複眼的に語り、最初こそ登場人物の多さに整理が大変だが、俳優たちが個性豊かに演じているために混乱はない。学生、主婦、子供、OL、老人といった様々な世代の人種が交錯するなかで、どこかに観客が共感を持てるポイントをつくり、きちんとオチをつけている脚本が非常に洗練されている。そして悩みをクリアした彼らが次のステップに向かって歩き出す姿が素晴らしい。


◆以下 結末に触れています◆


短い路線だから毎日利用していると顔見知りになったりもする。それらの出会いを面倒がらずに運命からの贈り物のように慈しむ、それこそ人生の機微。新たに大学生のミサと友達になった翔子が「悪くないよね、この世界も」と口にするシーンは、日々の小さな出来事でかまわない、よかったと心に残ることの積み重ねが現在と未来を豊かにすると教えてくれる。