こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

豆富小僧

otello2011-05-07

豆富小僧


ポイント ★★*
監督 杉井ギサブロー
出演
ナンバー 108
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


妖怪なのに人間から怖がられないばかりか、バカにされてしまう。仲間からも非力を笑われ、父からは怒鳴られる。そんな妖怪が、いなくなった母を探す過程で、自分にもできることを見つけていく。映画では、利益と効率ばかり重視する現代社会で、誰からも求められない寂しさが、愛嬌のある容姿をした主人公を通して表現される。何かの役に立ちたい、でも己には知恵も力もない、そう思い込んでいる彼が、友人たちとの触れ合いの中で自らの使命に目覚めていく姿がいとおしい。


父の見越し入道と大喧嘩して妖怪の森を飛び出した豆富小僧と友人の達磨先生は、タヌキに化かされてお堂に閉じ込められる。お堂が壊されて外に出るとそこは現代の東京。ふたりはアイちゃんという少女と知り合う。


もはや科学万能の21世紀、未知のものに対する恐れをなくした人間には、妖怪が見えない。ひとりアイちゃんだけに見えるのは彼女にまだ自然を畏れ敬う気持ちが残っているから。その一方でタヌキたちは欲望の塊となった人間に憑りつき、我欲を満たしている。豆富小僧には、天気のコントロールを目論む人間の愚行を目の当たりにしても、止める能力はない。それでも、結果的に傷ついた彼らのために力になろうとする。豆富小僧に「あなたにはあなたの役割がある」とアイちゃんが語りかけるシーンは、この世に必要のない存在などないという強烈なメッセージとなって、観客の胸に突き刺さる。


◆以下 結末に触れています◆


映像は初期のCGアニメを思い出させるようなレトロなタッチ。精細なリアリティを追求する代わりにどこかほのぼのとしていて、アクションシーンのスリルは抑えめ。なによりいちばん恐れられるべき死神ですら、不気味な外見に似合わぬちょっと不良っぽいしゃべり方でおどろおどろしさを消している。この作品が対象としている幼稚園児くらいの子供たちにはちょうど良い刺激となっているのではないだろうか。。。