こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マイティ・ソー

otello2011-05-14

マイティ・ソー THOR


ポイント ★★★
監督 ケネス・ブラナー
出演 クリス・ヘムズワース/ナタリー・ポートマン/アンソニー・ホプキンス/浅野忠信/トム・ヒドルストン/ジェイミー・アレクサンダー/レネ・ルッソ
ナンバー 114
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


落日に浮かび上がる天空の黄金都市、七色に表情を変えるクリスタルの橋、北欧神話風の甲冑をつけ武器を手にする戦士たち。神々が住む国は勝利の栄光に満ち、輝きに溢れている。その圧倒的なビジュアルは3D効果で更なる深い奥行きを持ち、まるで中世のおとぎ話の中にいる気分になる。映画は王の後継者となるべき男が、無謀さ無思慮さゆえに地上に追放され、分別と謙虚さを学ぶうちに、故郷の危機に立ち向かうまでを描く。独りよがりの行動が目立つ主人公が力を奪われたとき、頼れるのは友人。人は、いや神ですらどんな時もひとりでは生きていけないのだ。


王の命に背いて氷の巨人国に侵攻したソーは、王位継承権を剥奪された上に米国の砂漠に落され、観測中のジェーンたちに拾われる。ソーは自分の武具であるハンマーを回収しようとするが、すでにハンマーを操る力は残っていなかった。


“人間並み”になったとはいえ、ソーの強さは際立っていて、政府機関の屈強な警備兵をやすやすと片付けていく。このあたりソーの超人的活躍を期待させるが、驚異的な能力は復活しないまま。結果的にソーはジェーンたちから人間界の慣習を教わっていくが、彼の古臭い言葉づかいや現代米国の常識とはズレた挙動が笑わせてくれる。物語は、普通の男が爆発的パワーを得る過去のマーベルコミック物とは一線を画し、神が能力を失って普通の人間になるという正反対の構図を取る。その状況を受け入れ、むしろジェーンたちとスリルを楽しんでいるかのようなソーの姿が頼もしい。


◆以下 結末に触れています◆


後に、ソーの戦友たちも地球にやってくるが、彼らも銀色に光る鎧で身を固めている。その格好で米国の田舎町を歩くシーンは、ヘタなコスプレのごとき安っぽさがにじみ出ていて、ミスマッチが妙にはまっていた。ソーの冒険の旅はまだ始まったばかり、この作品は主要な人物紹介といったところで、真価が問われるのは次回作からのようだ。あと、エンドロールの壮大な「銀河の旅」風の映像は、まさにハッブル望遠鏡をのぞいている感覚で、宇宙への無限の想像力を刺激する。