こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

デンデラ

otello2011-05-26

デンデラ


ポイント ★★*
監督 天願大介
出演 浅丘ルリ子/倍賞美津子/山本陽子/草笛光子/山口果林/角替和枝/赤座美代子/山口美也子
ナンバー 120
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「めでてぇの〜」と白装束を着せられて雪深い山に運ばれる老女。体は動くのに、時期が来たからと村を追い出される。彼女自身、先にあるのは“死”だけと知りつつも無理矢理“極楽浄土”が待っていると思い込もうとしている。まだ死にたくない、寒いのや痛いのはイヤ、そういった本音を押し殺して運命を受け入れようとする彼女の姿が哀しい。物語は姥捨ての犠牲になった彼女の「その後」。 “一度死んだ”者の生命力は強く、因習から解放された老婆たちはたくましくも美しかった。


70歳になったカユは息子に背負われて“お山”に入る。1人で失神していると、以前“お山”に入ったはずの顔見知りに助けられ、小さな集落で目覚める。そこはメイという老婆がゼロから築いた、捨てられた女ばかりのコミュニティ・デンデラだった。


デンデラは労働も食料も公平に負担し分配する原始的な共同体で、彼女たちは“自分のために働く”楽しさにいきいきとしていて、モチベーションがあれば人はいくつになっても元気でいられることを実感させてくれる。もちろんここで描かれるのはファンタジーで、道具を持たない彼女たちの旧石器時代のような暮らしはリアリティに乏しい。だが、そんな場所でも50人も集まれば派閥ができトラブルも起きる。命ある限り、感情がある限り、喜怒哀楽を抱える。映像は彼女たちの人間らしさを前面に出し、生きている素晴らしさを謳いあげる。


◆以下 結末に触れています◆


男社会への憎しみが100歳のメイを支えてきたのだが、野生の熊の出現で計画が狂い始める。ストーリーも同調するように、そのあたりから老婆軍団対熊の構図に転調してしまう。瞳に憎悪をたぎらせて執拗に集落を襲う熊はいったい何のメタファーなのか。自ら未来を切り開こうとする老婆たちの思い上がりに対する自然界の戒め? それとも、せっかく命を長らえたのだから心安らかに余生を送れという神仏からのメッセージ? 熊の登場回数が重なるにつれ、映画の収拾がつかなくなってしまったのが残念だった。