こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛の勝利を ムッソリーニを愛した女

otello2011-05-28

愛の勝利を ムッソリーニを愛した女 VINCERE

ポイント ★★
監督 マルコ・ベロッキオ
出演 ジョヴァンナ・メッツォジョルノ/フィリッポ・ティーミ
ナンバー 91
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


彼の気高い理想と行動力に魅せられた。運命の人だと信じてすべてを捧げた。だが、彼は指導者になった途端、彼女との過去を封印した。後に独裁者となる男を誰よりも愛し、誰よりも憎んだ女は、当局によってあらゆる記録を消され、最愛の息子とも隔離されてしまう。映画は、社会主義の隆盛から第一次世界大戦独裁政治、教会との和解、そして破滅へと向かうイタリアの歴史を背景に、悲劇のヒロインの人生を通じて人間性が抑圧されていく過程を描く。自らの権力を脅威となる邪魔者は誰であっても容赦なく排除していく、彼女の闘いはそのまま人権が制限されていく全体主義政権下に生きた自由を求める人々の姿でもある。


官憲の弾圧から逃れるムッソリーニを匿ったイーダ。ふたりは激しい恋に落ち、イーダは全財産をムッソリーニの新聞社設立のために差し出す。その後イーダは妊娠・出産、正妻に気を使うムッソリーニは次第にイーダを遠ざけるようになる。


ヴェルディプッチーニのオペラから未来派アート、ファッション、ニュースフィルムまでをふんだんに盛り込んで当時の空気を濃密に封じ込めた映像は圧倒的な迫力を生む。さらに過剰なまでに説明的な音楽が平和とは程遠い激動の時代を表現しようとする。その一方で薄暗い夜や室内のシーンが多く、ほとんどのカットで俳優の顔に照明が当たらないため表情が読み取りづらいのはどうしたことか。昼間の場面ですらなぜか背後からのライティングは、あえて暴走気味のイーダの感情を抑えようとしているのだろうか。「初期のカラー映画の色彩の感覚を再現」しているらしいが、暗過ぎて見づらいようでは本末転倒ではないか。


◆以下 結末に触れています◆


やがてイーダは精神病棟に収容され、息子とも引き離されてしまう。そこでも自分こそがムッソリーニの正妻と訴える手紙を教皇を始め影響力のある人々に書き続けるが、もちろん届けられない。もはや彼女の正気は失われているのは確か。その中で、奪われた子供を取り返そうとする「チャップリンのキッド」を見ているときのイーダの涙だけが共感を呼んだ。