こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

TAKAMINE 〜アメリカに桜を咲かせた男

otello2011-06-03

TAKAMINE 〜アメリカに桜を咲かせた男〜


ポイント ★★
監督 市川徹
出演 長谷川初範/篠田三郎/渡辺裕之/田中美里/川久保拓司/柴田理恵/六平直政/松方弘樹
ナンバー 132
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


医者の子に生まれ、才を認められて海外留学した明治のエリート。夢を追い続け、他人の夢に力を貸し、日本を近代国家の仲間入りさせることに捧げた男の生涯は、まるで中学生対象の偉人伝のようなサクセスに満ちている。もともとティーンエイジャーに向けて作られた映画なのか、主人公が結果を出すまでの苦難や葛藤よりも、いかに彼がブレない心を持って生きたかが語られる。過剰に説明的なセリフも、普段コミックやアニメでしか物語に触れない年齢層への配慮なのだ。


加賀藩医師の息子・高峰譲吉飢饉に苦しむ農民の姿に胸を痛め化学者を目指す。優秀な成績で学業を終えた譲吉は、農務官僚を務めた後に渡米、肥料や薬品などの製造法を発明して財を築く。


譲吉の成功譚の他に、貴子というジャーナリストのインタビューに答えたポーツマス条約の秘話が興味深い。日露戦争の早期終結の仲介をルーズベルト大統領に依頼する伊藤博文からの密命を帯びた金子男爵に頭を下げられ、ルーズベルトと同窓だった譲吉はホワイトハウスに働きかけて国難を救う。しかし、このあたりの語り口も虚々実々の外交交渉には程遠く、パーティと人情に終始する。条約締結の裏には強引で汚れた駆け引きがあったはずなのに、そこもあっさりとスルーするのはやはり対象年齢が低いからなのか。唯一、“泣き一揆”首謀者の息子・村井との確執と和解のエピソードが映画をエモーショナルに盛り上げる。といっても村井の一人相撲だが。。。


◆以下 結末に触れています◆


やがて、ワシントンDCポトマック河畔に日本の桜を植える話が持ち上がり、今や大富豪となった譲吉が資金援助する。ところが、その過程でも、譲吉がどんな工夫がしたのか、どんな苦労をしたのかにまったくタッチしない。確かに高峰譲吉は志が高い人だったのだろう、周囲の人々にも希望を与える人だったのだろう。だが、彼の喜怒哀楽がほとんど描かれす、ただ歴史年表を早送りしているがごとき奥行きなさを感じた。もっと彼の人間的な部分を見たかったが。。。