こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

軽蔑

otello2011-06-06

軽蔑

ポイント ★★★*
監督 廣木隆一
出演 高良健吾/鈴木杏/大森南朋/忍成修吾/村上淳/ 根岸季衣/田口トモロヲ
ナンバー 134
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


短絡的な思考ですぐに行動に移し、何度失敗しても学習することはない。ミエを張ってばかりでカネにだらしがなく、とてつもなくアホでどこまでも世間をナメた男、でもその愛だけは本物。夜の世界以外に行き場がなく誰からも愛された記憶のない、肉体を見世物にするしか生きるすべのない孤独な女は、男の強引さに身をゆだねてしまう。カメラはそんなふたりにじっと寄り添い、まるで自分たちがどこまで堕ちていくかを確認したがっているような自虐的な彼らの行為を見守っていく。男に共感できる点はなく、女に同情する余地はない。それでも破滅に向かって一直線に突き進む姿は、純粋なまでに感情のリアリティに満ちていた。


歌舞伎町のチンピラ・カズは借金をチャラにするかわりにダンスバーで暴れ、ダンサーの真知子をさらって逃げる。そのままカズの故郷に帰り、ふたりで暮らし始める。しかし、カズの父は真知子の存在が気に入らず、それを知ったカズは父に刃物を向けてしまう。


26歳だというカズはいまだまともに働いた経験もないが、父が素封家ゆえ故郷では一目置かれている。イケメンなのだが、トラブルがあっても誰かが尻拭いをしてくれると、いつも無責任。彼の仲間も真面目に働くカズをバカにする言動を繰り返す。まさにバカの周りはバカばっかりの状態。刹那的な物語やカメラワーク、音楽の使い方など、映画は70年代を思わせる雰囲気をまとっている。だが、決定的に違うのはカズに追い詰められた者の切迫感のなさ。貧しさではなく甘えゆえの暴走。社会に対する問題提起ではなく、カズの資質に収れんさせているところが潔い。


◆以下 結末に触れています◆


当然、カズと真知子の運命が好転するはずもなく、ふたりは借金地獄に再びはまり、カジノ経営者からの取り立てに真知子は一時は身を売る決意までする。もちろんカズに解決する能力などなく、クズ男にふさわしい最期が待っている。結局、カズの生き様は何の教訓も残さない、その純文学的な非生産性が非常に魅力的に映る作品だった。