こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

光のほうへ

otello2011-06-07

光のほうへ SUBMARINO

ポイント ★★★
監督 トマス・ヴィンターベア
出演 ヤコブ・セーダーグレン/ペーター・プラウボー/パトリシア・シューマン/モーテン・ローセ
ナンバー 135
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


アルコールに溺れる者、ドラッグに手を出す者、暴力の衝動を抑えきれない者。決して根からの悪人ではないが、我慢の足りなさゆえ易きに流れてしまう人々。本当は人並に働き家庭を持ちたいと願っているのだろう、しかし、わずかなトラブルで責任を投げ出してしまう。映画はそんな社会の底辺で生きる家族の姿を正面から見据え、人間の弱さを赤裸々にあぶり出す。先の見えないトンネルでやっと見つけた「子供」という希望ですら、彼らにとっては重い負担でしかなく、手が届かない夢と消えてしまう。彩度の低い冷やかな映像は、身につまされるようなわびしい感情を象徴している。


アル中の母に育児放棄されたニックと弟は、生まれたばかりの赤ちゃんを可愛がるが死なせてしまう。数十年後、すさんだ生活をしているニックは、長らく音信不通だった弟に連絡を取ろうとする。一方、弟は妻に先立たれひとり息子のマルティンと暮らしているが、日々の食事にも事欠く始末だった。


弟はドラッグ常習者であるが、福祉局の援助を断ってマルティンを独力で育てようとする。その生活費を稼ぐ方法は間違っていても、自立したい気持ちは本物。だが、所詮彼に事を貫く意志の強さはなく、母と同じ轍を踏んでいる。この、「ニックの弟」「マルティンのパパ」と呼ばれ名前すら与えられていない男の匿名性は、そのまま高福祉政策を実現したデンマークが抱えるリアルな社会問題。心の弱い者は公的援助に一度どっぷりつかってしまうとそこから這い上がれない、それは国民を甘やかしすぎた政策の強烈な副作用なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


軽蔑していた母の葬儀でニックと弟は再会する。もはや戻らない兄弟の絆、ニックは遺産をすべて譲ることでしか弟への思いを表現できず、大人になってもお互い貧困から抜け出せないでいる気まずさゆえ、ふたりの距離は一向に縮まらない。獄中で偶然顔を合わせる場面の、何をやってもダメな人間同士の絶望に満ちた嘲笑が印象的だった。そして、母と弟、2度の葬儀シーンとも参列者は数人だけの寂しさが、彼らの人生を物語っていた。唯一マルティンの存在が過去と未来をつなげる「救い」となっていたが。。。