こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

コクリコ坂から

otello2011-07-19

コクリコ坂から

ポイント ★★*
監督 宮崎吾朗
出演
ナンバー 172
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


好きになった相手は父の隠し子だった。そんな現実に直面し戸惑う高校生。少年は気持ちをもてあまし少女の目をまともに見られない、少女は少年への思いを抑えきれない。もう子供ではない、だからこそふたりは大人のふりをしようとする。一方で自分はまっすぐに生きていると信じ、友人や同級生の前でもそうふるまっている彼らにとって、父の不実は他者に知られたくない汚点。映画は安手のメロドラマのような状況に置かれた高校生たちが、学園紛争を背景に人生の試練を乗り越えていこうとする姿を描く。木造家屋と未舗装道路ばかりの混沌とした町並みよりも、貨客船とタグボートが航行する港の風景が整然として美しい。


下宿屋を切り盛りしながら高校に通う海は、学校の文化部部室・カルチェラタン取り壊し反対運動で先頭に立つ俊と知り合う。海は俊が発行する学生新聞を手伝ううちに彼に惹かれ、カルチェラタン存続のために大掃除を始める。


ふたりが偶然海の父が写った同じ写真を持っていたのがきっかけで、俊は海が妹だと早合点するのだが、真相を知る大人は誰もいない。それでも同じ目的のために力を合わせるうちに、恋人同士になれなくても“好き”という感情は大切にしようとわだかまりを解いていく。そのあたりのやり取りが、ぎこちなさの中にも背伸びした駆け引きなしのストレートさで、高校生らしい思いやりも忘れていない。仲間と手を取って大人と戦い叶わぬ恋に胸を焦がせる物語は、青春の輝きに満ちている。


◆以下 結末に触れています◆


舞台となった1963年、世界は今よりずっとシンプルで、溢れる情報に踊らされることもない。人と人が面と向かって話をしていた時代に、彼らは信号旗を使って自らの意思を伝えようとする。たとえそれが誤解され、返信が届いていなくても、込められた願いは温かさを感じさせる。そのあたりでノスタルジーに浸らず、さわやかな初恋譚で押し切ったところに好感が持てた。