こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジョン・レノン,ニューヨーク 

otello2011-07-21

ジョン・レノン,ニューヨーク LENNONYC


ポイント ★★*
監督 マイケル・エプスタイン
出演 ジョン・レノン/オノ・ヨーコ
ナンバー 162
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


その死から30年が経ったが、彼の思い出を語る人々の表情はいまだ誇らしげで喜びに満ちている。己の最大の武器である歌で、反戦と平和のメッセージを発信し、米国政府を敵に回して一歩も退かなかった反逆児。世界を変える夢を実現した後は一転して家族というミニマルな社会構成単位に目を向け、“イクメン”を実践した先駆者。映画は時代のエッジを走り続けたアーティストの最期の10年間を膨大なアーカイブ映像と関係者のインタビューで再現する。おそらく’70年代の人々も生き急いでいた。それでも、現代のスピードから見ると時間の流れがゆったりして見えるのは、テクノロジーの発達だけが原因なのか。。。


イギリスを離れNYに居を構えたジョン・レノン。前衛芸術家の妻・ヨーコのせいでイカレたと陰口を叩かれながらも、米国では政治色の濃い新曲を次々に発表し、時のニクソン政権から目の仇にされていく。


しかし“反体制のシンボル”のジョンよりも、ニクソン再選の失意から浮気、ヨーコに三行半を突き付けられてLAに遁走するあたりに彼の素顔が垣間見えて楽しめる。お決まりの酒とドラッグにおぼれる日々。敗北感に打ちひしがれる姿が新鮮で、彼もまた一人の人間であったと共感すら覚えた。この機を境に、彼は社会的影響力のあるカリスマのポジションを捨て、ヨーコとの和解、ニクソンの失脚、グリーンカードの取得を経て、個人的な幸福へ興味が移っていく。その過程を見ていると、“成熟”とはこういうものなのだと改めて感じる。


◆以下 結末に触れています◆


二男の誕生以降は積極的に育児に参加し、父と子の絆を深めようとするジョン。スタジオでの仕事中も息子の写真を飾り、スターではなく一人の父親として振る舞う。そんなジョンの丸くなった生き方は、抵抗すべき抑圧を見失った’80年代の旧西側世界を予見するようで、“War is over”と歌った彼の心境が具体化されていた。だが、もし、21世紀の格差と貧困を目の当たりにしたら、ジョンはどんな感慨を抱くだろうか。。。