こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

やがて来たる者へ

otello2011-07-22

やがて来たる者へ L'uomo che verra


ポイント ★★★
監督 ジョルジョ・ディリッティ
出演 グレタ・ズッケリ・モンタナーリ/アルバ・ロルヴァケル/マヤ・サンサ/クラウディオ・カザディーオ
ナンバー 167
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


無知ゆえに貧しく、無教養ゆえに世界の趨勢から距離を置いている。第二次大戦中のイタリア山間部の農村、そこには戦争の影は薄い半面、相変わらず余裕のない生活に人々は喘いでいる。カメラはそんな村が、否応なしに殺し合いに巻き込まれ、多くの非戦闘員が血にまみれていく様子をとらえる。だが、その光景をじっと見つめているのは8歳の少女。彼女にはまだ敵味方や善悪の区別がつかず、村人が殺されてもドイツ兵が死んでも、意味も理由も理解できない。それでも、“死”が忌むべきものなのは知っている。映画は、彼女に眼の前で起きている事実を淡々と受け止めさせ、その感情を交えない描写は虐殺の歴史ですら客観視しているようだ。


ボローニャ郊外の小さな村で暮らすマルティーナは、弟の突然死以来口がきけなくなり学校でいじめられたりするが、大家族のもと可愛がられている。1943年冬、村にもドイツ軍が進駐し、若者たちはパルチザンを組織して抵抗運動を始める。


連合軍に降伏してドイツの“敵”になったイタリアの複雑な状況が背景にあるのだが、説明は一切ない。それは、この村の住民たちにとってイデオロギーや国家間の対立など政治家や官僚の戯言に過ぎず、ただ“生き残ることこそ勝利”という農民のポリシーの上に彼らの日常が成り立っているから。そうやって大人も女も態度を鮮明にせず、村に来た軍人の銃口をかわし続けてきたのだ。


◆以下 結末に触れています◆


そうした中、若者は銃を手にして血気にはやり、ドイツ軍はパルチザン掃討の名目で村民を一斉に処刑し始める。奇跡的に生き延びたマルティーナは生まれたばかりの赤ちゃんを助け出し、ひとりで育てようとする。たくさんの死を見てきたマルティーナにとって、自分と赤ちゃんの命を永らえるのが人生の試練に打ち勝つこと。彼女が声を取り戻し歌いだすのは、死と荒廃の中で唯一の希望を見出したからだろう。だからこそ観客はマルティーナの経験から戦争の真実を見出さなければならない。