こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ロック 〜わんこの島〜

otello2011-07-25

ロック 〜わんこの島〜


ポイント ★★*
監督 中江功
出演 佐藤隆太/麻生久美子/土師野隆之介/佐原弘起/岡田義徳/柏原収史/原田美枝子
ナンバー 178
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


火山灰に覆われた島を去る少年を乗せたバンの後を力尽きるまで犬が追いかける、新しい飼い主にもらわれていく犬を乗せたワゴン車を息が上がるまで少年が追いかける。同じ方向に走りながらも離れ離れになる少年と犬、その立場が逆転する2つ場面を見せた後、最後に失われた時間を取り戻すようにお互いを認めた少年と犬は駆け寄って抱きしめあう。天変地異に日常を奪われた一家と飼い犬の愛と別れ、ほとんど先の読める展開の物語の中に、これら映画的に計算されたシーンが見事な調和とバランスを生み出し、新鮮な驚きをもたらしてくれる。


三宅島で民宿を営む両親のもと、芯は飼い犬・ロックを大切に育てている。'00年8月、火山が噴火し全島民が離島する中、ロックはケージから抜け出し、島に残る。芯と両親は東京で避難生活を始めるが、ある日ロック救出の情報が入ってくる。


災害による緊急住民避難、遠くなった故郷と慣れない避難所での暮らし、世話をする人がおらず野犬化する飼い犬。三宅島と島民に起きたことは過去の出来事になってしまったが、ここに描かれているエピソードはほぼそのまま東日本大震災原発事故で退去を余儀なくされた被災者の姿と重なり、映画は現在進行形になっている。狭いアパートでの日々、新しい環境、いつか帰れるという希望と帰れる日が来るのかという不安、そんな毎日でも、芯親子は励ましあい、決してくじけない心を武器に逆境に立ち向かう。つらいとき苦しいとき家族がいかに支えになるかを映画はてらいなく訴えるが、震災・原発被災者はこの作品をどうとらえるのか興味深い。


◆以下 結末に触れています◆


芯は小学校の帰り道でデブの少年に道をふさがれ、一度は逃げるが、戦わなくてはと決心し、つかみかかってきた彼をなぎ倒す。本筋とは関係ないが、祖母の思い出を語る少年の気持ちが切なく温かいこの挿話のオチも、人間は生きているのではなく生かされている、命は自分だけのものではなく前世代から受け継いで子孫に託すものであるといった願いが込められていた。