こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

孔子の教え

otello2011-07-30

孔子の教え

ポイント ★★★
監督 フー・メイ
出演 チョウ・ユンファ/ジョウ・シュン/チェン・ジェンビン
ナンバー 180
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


いかなる困難に直面しても慈愛の光が消えず、たとえ敵兵であっても人の死には悲しみを湛える。学識と武術を兼ね備えた中国思想家の太祖、彼の目はすべてを見通す一方で、あらゆるものを包み込む懐の深さも併せ持つ。物語は、そんな主人公が政に参加し、広く自身の思想を敷衍ようになった中年以降にスポットを当て、人と人・人と社会の関わり合いの基本となる道徳はいかにして生まれ流布されたかを描く。経世済民とは見識の高い者が一般庶民をより幸福へ導く道。少数のエリートが国家を統治する中国の伝統は2500年も前に確立されていたと思うと、衆愚政治に陥っている今の日本の“民主主義”に疑問を持たずにはいられない。


魯公に登用された孔子は、国の実権を握る3人の有力者から妨害を受けながらも奴隷殉葬を廃止するなど改革を実行していく。そして隣国・斉との同盟を結び、先代の失地を無血で取り戻す。


常に冷静さを失わず理を説き、相手を論破する。時にトリックを使って劣勢を挽回するなど智略にも富んでいる。さらに色仕掛けに対しては毅然とした態度で臨む。決してブレない信念を持つ男、だが怒りや激情とは無縁。映画は中国社会では半ば神格化された感のある孔子を、平和を求めたひとりの人間としてとらえる。長髪長髯の仙人然とした風貌の孔子チョウ・ユンファが超然と演じ、他を圧倒するカリスマ性を醸し出している。


◆以下 結末に触れています◆


魯公に罷免された孔子は諸国漫遊の旅に出る。ひとり荒野をさまよう孔子を弟子の顔回が待ち受け、後に多くの弟子が合流する。その際、願回が馬車いっぱいの木簡を持参し、氷水に落ちた時も自らを犠牲にして木簡を拾い集めようとする。まだ紙も印刷術もなかった時代、学問を志す者にとって書物は命そのものだった事を象徴するエピソードだ。他にも、箸を使わずに食事をしたり、椅子ではなく床に直接座ったりと、今までに語られたことのない中国の様式が珍しく、人々の暮らしもまだ質素。現存する史料が少ない中、当時の中国の文化・文明の洗練度の高さを再現する作業は難しかったに違いない。