こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

女と銃と荒野の麺屋

otello2011-08-05

女と銃と荒野の麺屋 


ポイント ★★*
監督 チャン・イーモウ
出演 スン・ホンレイ/シャオ・シェンヤン/ヤン・ニー
ナンバー 181
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


恐怖とは人の想像力の産物。秘め事や謀り事を持つ者は、いきおい周囲の刺激に対して過剰反応し、心配が恐れとなりやがては押しつぶされてしまう。一方、自分の目で見たことしか信じない現実主義者は、実体のないものに先入観を持ったりはしない。そして人工着色料に染まったような毒々しく赤茶けた大地と成層圏の冷たさを湛えた青空、それらが見せる色調の変化と、流れる雲や満月の光は、登場人物の感情を代弁する。映画は、欲望にまみれた人間の心の動きを鮮明に反映させ、その愚かな本質を赤裸々にした上でほのかなユーモアすら漂わせる。


荒野に佇む一軒の麺屋、店主・ワンの妻は従業員のリーと不倫中。ある日、妻は行商人から拳銃を購入、それを知ったワンは警官のチャンにふたりの殺害を依頼する。だが、チャンは密会中の妻とリーを殺さず、代わりにワンの金庫のカネを狙う。


冒頭、異国の衣装をまとった剣術使いの不思議なダンスは、見る者をいきなり奇妙にズレた世界観のなかに引きずり込んでいく。さらに3人の従業員が麺を捏ねピザのように空中で回転させながら伸ばしていくシーンは、サーカス芸並の見事な出来栄えだ。ところが本人たちはいたって真剣にスキルを披露しているのに、凄さよりもむしろ滑稽さのほうが前面にプッシュれる。物語は冗談とも本気とも取れるつかみどころのない違和感に終始支配され、出口のない迷宮に放り込まれたごとき戸惑いを抱かせながらも、心地よい浮遊感に浸らせてくれる。


◆以下 結末に触れています◆


チャンはワンを殺すが、リーがワンの死体の後始末をし、別の従業員・ジャオが金庫を開ける。その間も彼らはワンの地下室に次々と入っては出ていくが、誰一人として進行中の事件の全体像をつかんでいない。彼らの様子を第三者の視点で観客は見ているわけだが、すべての成り行きを見守っていてもなお、彼らがたどるどの運命には共感が湧いてこなかった。最後まで表情を変えないチャンの胸の内がいちばん手に取るようにわかるという、ひねりの効いた作品だった。