こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アジョシ

otello2011-08-10

アジョシ


ポイント ★★*
監督 イ・ジョンボム
出演 ウォンビン/キム・セロン/キム・ヒウォン/ソン・ヨンチャン/キム・テフン
ナンバー 188
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


骨がぶつかり関節がきしみナイフが肉を抉る。プロの殺し屋同士の洗練された素早い攻撃と防御の応酬は瞬きもできない緊張感にあふれる。一方で彼らをとらえるカメラワークは、殺し合いとは思えないほど流麗な上、効果音や音楽を廃し格闘描写に徹した映像は端正でスタイリッシュ。閉ざした心と強靭な肉体を持った男が再び己の本能に火をつけたとき、すさまじい殺戮のオペラが奏でられる。映画は、犯罪に巻き込まれた元暗殺者が、孤独な女の子を救うために怒りを爆発させ、彼女を拉致したマフィアを追い詰めていく過程を描く。他人を拒絶するような悲しい目をした寡黙な主人公をウォンビンがクールに演じている。


質屋のテシクは隣人のダンサーからバッグを預かるが、そこにはギャングのマンソク兄弟から強奪した麻薬が隠されていた。回収に来た子分をテシクは返り討ちにするが、ダンサーの娘・ソミを人質に取られた上、マンソク兄弟の罠にはまり逮捕されてしまう。


チンピラだけでなく警察官たちも一瞬で片づけてしまうテシク。国家に殺人マシンとして訓練された技のキレは、映画向きの派手さこそないが、体のあらゆる部位を利用して相手の急所を確実につぶすリアルなもの。さらに斧やナイフ、三日月形の小刀まで使いこなし、それらの多彩な人殺しテクニックはもはやアートの域に達し、見る者を戦慄と恍惚にいざなっていく。


◆以下 結末に触れています◆


物語は、テシクがソミを救出すべくマンソク兄弟に迫っていくが、他方刑事たちに追われている。だが、警察はテシクの正体を暴くだけの狂言回しに過ぎず、それほど時間を割く必要はなかったのではないか。もっとテシクとマフィアとの抗争に絞り込めばスピーディな展開になったはずだ。またマンシク兄弟がシノギにしている臓器売買への踏み込み方も甘く、かえって登場人物が多くなり人間関係が複雑になっている。「ウォンビンの映画」なのだから彼のカッコよさを前面に出し、その超人的な強さを見せることに専念したほうがより刺激的だっただろう。