こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

この愛のために撃て

otello2011-08-15

この愛のために撃て A BOUT PORTANT


ポイント ★★★
監督 フレッド・カヴァイエ
出演 ジル・ルルーシュ/エレナ・アナヤ/ロシュディ・ゼム/ジェラール・ランヴァン/ミレーユ・ペリエ/クレール・ペロー
ナンバー 190
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


窓から窓へ飛び移り、階段を駆け下り、雑踏を縫い、通路を抜け、線路を渡る。逃げる男と追う刑事、肺がきしみ心臓が悲鳴を上げ足がもつれてもなお走り続けるダイナミックな追跡劇を、カメラはリアリティたっぷりに再現する。誰が味方で誰が敵なのか、罠にはめられて窮地に陥った殺し屋と陰謀に巻き込まれた看護師が、様々な偽装と欺瞞に行く手を阻まれながら真相に近づく中、意思と肉体的なタフネスを見せていく。そんな、映画全編を貫く疾走感と予断を許さない意外な展開の連続は、ラストまで衰えることなく感覚を刺激し続ける。


妊娠中の妻・ナディアを誘拐された看護師のサミュエルは、交通事故で入院中の指名手配犯・ユゴーを連れ出せと命令され、実行する。しかし、身柄を交換する際に邪魔が入り、サミュエルとユゴーは組織に命を狙われる羽目になる。


サミュエルは担当の女刑事がいきなり射殺され、ユゴーも相棒を失う。本来ユゴーを憎むべき立場のサミュエルはユゴーしか頼れる者がいない。ユゴーもまたサミュエルの決意と行動力を“使える”と判断したのか、見捨てるどころかむしろ友情のような感情を抱きはじめる。共通の敵と戦い、生き残りにはお互いの協力が必要という状態に追い込まれた2人がいつしか信頼関係を築いていく、その変化が“骨太な男のドラマ”の印象を強くしている。


◆以下 結末に触れています◆


やがて事件の黒幕の正体とナディアの居場所を突き止めたユゴーとサミュエルは、身の潔白を証明する映像を手に入れようと警察署内に潜入する。大胆かつ繊細な虎穴に入る作戦はまたしても異様なテンションの中で実行され、ぞくぞくするサスペンスを盛り上げる。結果的に平凡な人生を送ってきたサミュエルがナディアのために暴力に目覚め、血なまぐさい世界を住み処にしてきたユゴーが義理を果たそうとする。彼ら2人が思いもよらぬ素顔・眠っていた本性を露わにする過程は、人間の二面性を見事に描き切っていた。一方で最後にはきちんと2人とも「元の自分」に戻るあたり、奇妙な安心感を伴う作品だった。