こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

幸せパズル

otello2011-08-18

幸せパズル ROMPECABEZAS

ポイント ★★★
監督 ナタリア・スミルノフ
出演 マリア・オネット/ガブリエル・ゴイティ/アルトゥーロ・ゴッツ/ヘニー・トライレス
ナンバー 191
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


愛されてはいるが尊敬はされていない。感謝はされているが理解はされていない。夫と2人の息子の世話に明け暮れそれなりに充実した人生を送っていたヒロインが、ふとした瞬間に自分の存在意義を問い始める。そんな彼女がジグソーパズルに夢中になり、初めて家庭の外にも居場所を見つける。そこにいた男は彼女を一人前の独立した人間として扱い、話に耳を傾けてくれる。物語は幸福な隷属に甘んじている専業主婦が味わう束の間の自由と、その変化に対応しきれない男たちの戸惑いを描く。ヒロインの繊細な胸の内をマリア・オネットがミニマルな感情表現で演じ、甘酸っぱい余韻を残す。


家族のために手の込んだ食事を作るマリアだが、みなそれが当たり前と思っている。ある日、ジグソーパズル選手権に出場するためのパートナー募集広告を見たマリアは、ロベルトという募集主に連絡を取る。


おそらくロベルトとの出会いはマリアにとって何十年ぶりかの心ときめく出来事だったはず。かなり裕福そうな、しかも男やもめらしいロベルトの上品で優雅な立ち居振る舞いは、家族の男たちとは明らかに違うハイソな香りが漂っている。ロベルトの前では必死で平静を装うマリア、そして彼との時間は決して家族には明かせない秘密となる。一歩踏み出して今の生活から羽ばたきたい、でもその勇気がもてない。マリアが揺れ動く気持ちを顔に出すまいとする様子がとてもリアル。念入りに体を洗うことで彼女の恋心を示すあたり、非常に洗練されている。


◆以下 結末に触れています◆


マリアとロベルトは見事国内予選を勝ち残り、ドイツで行われるジグソーパズル世界大会への出場権を得る。ようやくロベルトとキスを交わし体を重ねるマリア、だが映画はあくまでアリアに自重を促し、彼女に夫の元を飛び立って自立の道を歩ませるようなマネはしない。ひとりだけのピクニックでささやかな抵抗を試みるしかないマリアの姿に、まだまだ女性の地位が低いアルゼンチンという国の現実が投影されていた。