こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

リメンバー・ミー

otello2011-08-26

リメンバー・ミー REMEMBER ME


ポイント ★★★
監督 アレン・コールター
出演 ロバート・パティンソン/エミリー・デ・レイビン/クリス・クーパー/レナ・オリン/ピアース・ブロスナン
ナンバー 203
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


兄の自殺を発見した男とチンピラに母を殺された女。近親者の死を目の前で体験したふたりは心の空白を埋めるかのように求めあうが、恋の喜びに浸る一歩手前で、先に逝ってしまった人への遠慮なのか、気持ちに一線を引いてしまっている。映画は、ふたりの出会いと別れ、やり直しの過程で “いまを精いっぱい生きる” 大切さを描く。無駄な命などひとつもない、無駄な行動などひとつもない。誰かを愛し、他人の役に立つことで人生は意味を持つのだ。


刹那的な生活を送るタイラーはルームメイトに唆され、以前自分を逮捕した刑事の娘・アリーに声をかける。ふたりは急接近し、父と大喧嘩したアリーはタイラーの部屋に転がり込んでくる。


タイラーは兄の自死ですごく傷ついているのに、悲しみを見せず仕事一筋の父を許せず折り合いが悪い。だが、一見冷淡な父こそ子供たちを一番気に掛け、社会的に責任のある立場ゆえ私情を持ちこめなかったのだとタイラーは考え至る。一方のアリーは母がいなくなった後の濃密過ぎる父娘関係にウンザリしているが、後に父の思いに気づく。父との距離感をうまく保てない若者たち、といってもティーンエージャーではなく成人した大人、世代間の価値観の違いに反発はするがそれを乗り越えていこうとする気概が希薄なのは、死をあまりにも身近に経験したせいなのだ。


◆以下 結末に触れています◆


ふたりの物語は2001年5月のマンハッタンから始まるが、当然近い未来に911が彼らとその家族の運命に深くかかわってくるのは予想される。だからこそ、兄への感傷に浸りながら怠惰な日々を送るタイラーに苛立ちを覚えるが、後に妹のいじめを契機に彼が人間関係と己の生き方を見直していく姿は清々しく感じられる。そしてもう一度地下鉄に乗って哀しい過去を克服しようとするアリー、彼女の前に歩き出す勇気が亡くなった人々の遺志を受け継ぐ象徴となっていた。911が喪失ではなく再生のきっかけとなる、そんな映画はこの作品が初めてではないだろうか。