こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

神様のカルテ

otello2011-08-30

神様のカルテ

ポイント ★★
監督 深川栄洋
出演 櫻井翔/宮崎あおい/要潤/吉瀬美智子/原田泰造/西岡徳馬/池脇千鶴/加賀まりこ/柄本明
ナンバー 205
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


表情すら失うほど憔悴しているのに、順番を待つ患者たちの治療を続けなければならない。当直が明けてもそのまま診察室にはいり、わがままばかりの患者たちの言い分に耳を傾け処置をしていく。救命救急、それは医師・看護師の献身的な労働によって支えられている現実を描くプロローグは緊張感よりむしろ悲壮感を漂わせている。物語はそんな病院で働く青年医師が、研究の道に進むべきか目の前の一人の患者を安らかに見送るべきかの葛藤を通じ、人の命を預かるとはどういうことかと問うていく。


町の総合病院の勤務医・一止は多忙な日々を送っていたが、ある日、大学の医局に研修に呼ばれ最新医療を学ぶ機会を得る。しばらくして、安曇という末期ガン患者が一止を頼って勤務先に転院してくる。


「案ずるな」「〜やもしれぬ」「面目ない」etc. 漱石を愛読しているせいか、一止が住む古い旅館を改装した共同住宅では明治時代の小説に出てくるような言葉が飛び交う。画家、写真家、学士、そこは成功を夢みる芸術家の卵たちが暮らすコミュニティ。お互い虚勢を張り傷をなめあう馴れ合いの場でもあるのだが、彼らの青臭さは、よき医者とは何かを常に自問している一止にとっては唯一心を開いてくれる存在でもある。そのあたりの一止をはじめ他の登場人物のいかにも善人然とした言動の数々は、虚構と分かっていてもその優しさにつつまれたくなる。


◆以下 結末に触れています◆


安曇の担当医になった一止は、近親者のいない彼女のために医師の職域を超えて接していく。しかし、患者の願いを聞いてやるのは当然であるが、自分の妻にカステラを買いに行かせるのはいかがなものか。やがて映画は一止と安曇の関係がウエットになるほど停滞していく。人も自然も丁寧に撮られた映像はみずみずしく、悪意を持った人間が登場しないストーリーも口当たりは良い。それでも、一止の自己満足とも思える安曇へののめりこみと、テンポがのろく感情を抑えた山場の少ないエピソードの数々は退屈を禁じ得なかった。