こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

レア・エクスポーツ

otello2011-09-06

レア・エクスポーツ Rare Exports

ポイント ★★★
監督 ヤルマリ・ヘランダー
出演 オンニ・トンミラ/ヨルマ・トンミラ
ナンバー 201
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


羊のような大きく曲がった角を持つ怪物が悪い子供の尻を叩く。本来の姿が完全に忘れられ、今ではすっかりクリスマスにプレゼントを配るおじさんのアイコンが定着したサンタクロース。映画は、サンタの故郷・氷に閉ざされたフィンランドの奥地に残るサンタ伝説に、ホラーと冒険の要素を加える。その奇想は独特のユーモアを交えながら、真面目なシーンなのにおかしくてコミカルなはずがスベる、どこか笑いの的を絞らせない変化球に幻惑されている気分にさせてくれる。そんな中で無垢で臆病な少年がたくましく成長していく過程が楽しめる。


国境付近の鉱山で氷詰めのサンタクロースの“本尊”が発見され、ひと儲けを企む多国籍企業が掘り起こす。ふもとの村に住む少年・ピエタリはサンタクロースの起源を調べるうちに恐ろしいことが起きるのではないかという予感にとらわれるが、はたしてトナカイの大量死、子供の集団失踪が相次いで起きる。


一方で、ピエタリの父は狼の罠にはまった薄汚れた全裸の老人を収容していたが、人間の外見をしていても思考が読めず邪気をまき散らす老人に手を焼いている。やがて同じ風体の老人が数百人で村を襲ってくるのだが、その様子はまるでゾンビ。しかし、彼らこそが現代のわれわれが目にしているトナカイのそりに乗った赤い服の男の正体、資本主義文明における消費のシンボルの虚像をはがし鮮やかな文明批判になっている。


◆以下 結末に触れています◆


裸の老人たちが“妖精”と訳されているのが笑わせるが、彼らはむしろ“本尊”の操り人形的存在。彼らの関係をいち早く見抜いたピエタリの機転で、“本尊”を破壊したうえに198人の “妖精”軍団を生け捕りにしてしまう。悪いのは多国籍企業なのか、村の子供たちに怖い思いをさせるサンタの“本尊”なのか、いずれにせよ、ピエタリの勇気が村を救い、結果的にサンタクロースのイメージを守る。商業主義とは一線を画した素朴な人々の心にも小さな欲望があるのを否定せず、それが「世界中の子供たちのため」の方向に向いているところに好感が持てた。