こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

新少林寺

otello2011-09-15

少林寺

ポイント ★★★
監督 ベニー・チャン
出演 アンディ・ラウ/ニコラス・ツェー/ファン・ビンビン/ジャッキー・チェン/バイ・ビン
ナンバー 211
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


拳銃や小銃を持った兵士に対しても手にする武器は棍棒や剣。武術鍛錬を通じて己を高めようとする僧たちは、圧倒的な不利にもかかわらず敵に背中を見せない。それは西洋の物質文明には屈しない、科学力では劣っていても4000年の歴史を持つ文化の力では決して負けていないという中国人の矜持。革命と内戦・欧米の介入、時代の荒波は外界とは隔絶した寺院の中で修業を積む僧たちにも襲い掛かり、容赦なく戦乱に巻き込んでいく。映画は1人の軍人が僧として生まれ変わる過程を通じて、命の大切さを追及していく。


辛亥革命直後、軍閥の指揮官・候杰は少林寺に逃げ込んだ敵将を殺害する。その後、義兄でもある将軍を暗殺して実権を奪おうとするが、逆に腹心の部下・曹蛮の裏切りにあい、命からがら重傷の娘を抱えて少林寺に助けを求める。


かつて土足で蹂躙した少林寺の僧たちに救われて、候杰は過去を見つめなおす。権力のみを目的に生きていた人生が、自分を信頼してくれていた将軍の寝首をかくつもりが信頼していた部下に足元をすくわれる結果に終わった皮肉。一方で僧たちは慈善事業に励み、武術を学んでもそれを自己の欲望を満たすために使わず、魂の高みを目指している。そんな彼らの生き方に触れ、頭を丸めて煩悩を払おうとする候杰の決意は、人は何歳になってもやり直せることを教えてくれる。


◆以下 結末に触れています◆


やがて候杰の身柄を抑えようと曹蛮が大軍を率いて少林寺を攻める。さらにその背後から外国軍が大砲で攻撃、曹蛮軍もろとも少林寺の建物を破壊していく。このシーンは、中国人同士が覇権を目指して争ううちに外国人に蚕食された、19世紀末〜20世紀前半の中国の歴史そのものだ。人が作ったものはいつか壊される、しかし、人が伝え守ってきた少林寺の精神は途絶えはしない、雪の降る中修練に励む少年僧たちの姿は1500年受け継がれてきた少林寺の思想と次世代への希望を象徴していた。