こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独

otello2011-09-16

グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独
GENIUS WITHIN: THE INNER LIFE OF GLENN GOULD


ポイント ★★*
監督 ミシェル・オゼ/ピーター・レイモント
出演 グレン・グールド
ナンバー 213
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


芸術家に必要なものはオリジナリティ。だが、世間を驚かせるような斬新なスタイルの演奏も、大衆に受けいてられ広く認知されるにつれ陳腐になる。その結果、主人公はさらなる革新を求めてますます自分の殻にこもり偏執的になっていく。映画は、天才ともてはやされ世界中にファンを持つまでに至ったピアニストが、創作の過程で他人を遠ざけ、孤独にさいなまれながらも自らの存在をアピールしていこうとする姿を描く。多くの謎ゆえに伝説となった人生とは裏腹に、彼の素顔を知る人々の証言が生々しい。


モントリオール出身のグレン・グールドは、NYでのデビューリサイタルでレコード会社重役の目にとまり早速契約を結ぶ。彼の自然で明快なバッハはたちまち大評判になり、ソ連公演でも大好評を得る。


キャリアのまさに絶頂期、指揮者のバーンスタインと音楽に対する解釈が異なり、折れたバーンスタインが異例の釈明を出す事態になる。指揮者と演奏者、どちらが主導権を持つのかという問題はさておき、グールドの絶対に妥協しない姿勢がうかがえる。ただ、2人の間にどんな葛藤があったのかは当事者のみが知るところだろうが、この事件の顛末をもう少し掘り下げてほしかった。一方で、私生活では家庭のある画家やソプラノ歌手と愛し合うが、彼のエキセントリックな性格についていけなかったのか、いずれも幸せな暮らしを手に入れたとは言い難い。


◆以下 結末に触れています◆


やがてグールドは聴衆の前から消え、レコードのみで新作で発表する。それはスタジオで録音され、想定外の要因を完全に取り除き、理想の音だけを編集した、彼にとっての完璧な音楽。そこにはハプニングから生まれる予想外の驚きや感動はなく、計算された美しさがあるのみ。作り手は、そのあたりの音楽性よりもむしろ彼の変人神話の裏にある人間的なエピソードを丁寧に拾い集める。グールドのファンでなければ理解できない部分も多いが、彼の音楽は時代を越えて人の心に訴える魅力があることは確かだ。。。