こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

僕たちは世界を変えることができない

otello2011-09-27

僕たちは世界を変えることができない
But, we wanna build a school in Cambodia.


ポイント ★★*
監督 深作健太
出演 向井理/松坂桃李/柄本佑/窪田正孝/村川絵梨/黒川芽似/江口のりこ/黄川田将也/リリー・フランキー/阿部 寛
ナンバー 227
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


満ち足りているけれど何かが足りない。不満はないが期待していた学生生活とは違う。そんな、人生に違和感を覚えている若者が確かな手ごたえを求めて疾走する姿は好感が持てる。世界を変えようなどと思い上るのではなく、ほんのわずかでもいいから足跡を残したいという身の丈に合った願望。それでも、一度決めた以上は最後まであきらめずにゴールを目指す姿勢が素晴らしい。資金集めの困難の中で、己を信じ仲間と助け合う大切さをこの映画は教えてくれる。


医大生の甲太は学業も遊びも中途半端だが、ある日「カンボジアに小学校を建てる」ポスターを見て一念発起、基金を募るために友人に呼びかけてサークルを作る。目標額の150万円を集めるためにイベントや募金を始める一方、カンボジアに視察旅行に出かける。


そこで目にしたのはポル・ポト時代の負の遺産強制収容所の血塗られた歴史を雄弁に語る狭い独房や足枷、おびただしい数の頭蓋骨に甲太たちは大きな衝撃を受ける。地方ではいまだに除去しきれていな地雷のせいで発展が遅れ、屋根のない小学校に子供たちが通っている。ここに来て初めて甲太は為すべきことの重大さを知り覚悟を決める。それまで甲太たちはカンボジアがどんなところでどんな過去を持っていたのかもほとんど知らなかったのだ。そのあたり、あまりの動機の軽さに唖然とするが、きっかけなんか何でもいい、とにかく動き出すのが肝心なんだと物語は訴える。


◆以下 結末に触れています◆


サークルが空中分解しそうになった時も、「なぜカンボジアなんだ」というメンバーからの問いに甲太は答えられない。イベントでのあいさつでも、甲太は自分がいかに小さな人間であるかを強調し、だからこそ力を貸してほしいと叫ぶ。この、大ぶろしきを広げるのではなく、少しずつ前に進んでいこうとする姿は、大きな夢は持っていないが真面目に頑張る気持ちに真摯に向き合う今どきの大学生を象徴しているのだろう。純粋な若者の思いを応援したくなる作品だった。