こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

さすらいの女神たち

otello2011-09-30

さすらいの女神(ディーバ)たち Tournee

ポイント ★★
監督 マチュー・アマルリック
出演 ミランダ・コルクラシュア/スザンヌラムジー/リンダ・マラシーニ/ジュリー・アン・ミュズ/アンジェラ・ド・ロレンゾ
ナンバー 170
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


垂れ気味の巨大な乳房とでっぷりと脂肪がついた腰回り、およそダンサーのイメージとは程遠い踊り子が贅肉を波打たせながらステージで体をくねらせる。セクシーとは対極にある彼女のパフォーマンスは、むしろ“怖いもの見たさ”に近い物珍しさで興味をそそる。それは鍛え上げた肉体では表現できない人間の“ナマの姿”、食欲に忠実で自然に年を取った中年女の現実が垣間見える。映画はフランス各地を巡業して回る米国のバーレスクダンサーと彼女たちのマネージャーの日常を切り取り、生きるために必要な心のゆとりを見つけ出していく。


ル・アーブルでの公演を終えたダンサーたちは電車やバスを乗り継いで次の巡業先に向かう。マネージャーのジョアキムはダンサーたちのワガママにふりまわされながらも、合間を縫ってパリに住む息子たちに会いに行く。


ジョアキムはかつて辣腕TVプロデューサーだったが、パリに居づらくなったらしい。パリでの公演を巡って旧知を頼っても、誰も協力してくれない。おまけに久しぶりに再会した反抗期の息子たちも言うことを聞かず、ジョアキムのフラストレーションは高まりっぱなし。彼はホテルや店にBGMの音量を下げろといちいち文句を付けて回るが、最初から拒否されて不愉快な思いをするのが分かっているのに、あえてクレームを付ける自虐的な行為を繰り返して、まだ自分にも“あきらめない気持ち”が残っているのを確認する。そのひねくれた思考回路が彼のキャラを際立たせていた。


◆以下 結末に触れています◆


スーパーで前夜ショーを見たレジ打ちのおばさん(おばあさん?)にジョアキムが声をかけられるところは何のメタファーなのか。唐突に下着を見せようとするおばさんは、ジョアキムにキレて商品を彼に投げつけるのだ。成り行きは面白いが、なぜこうなったのか全く説明がなく想像するしかない。「人生という名の散歩」、このセリフに象徴されるように他のエピソードもおしなべてシーンを散文的に投げ出すだけで、それらが物語を構成する要素として有機的に機能していないのが残念だった。