こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アンダー・コントロール

otello2011-10-01

アンダー・コントロール Unter Kontrolle

ポイント ★★★
監督 フォルカー・ザッテル
出演
ナンバー 219
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


レンガ造りの古い街並みの近く、たくさんの自動車が走る生活道路のそば、通勤電車の線路脇etc 人里離れた海岸線にポツンと佇む日本とは違い、ドイツの原発は人々の暮らしに隣接している。カップを伏せた形の巨大な冷却塔は、CO2を出さないクリーンエネルギーとしてかつては人類の叡智と科学の勝利を象徴していたはずだ。しかし、反原発のうねりの中、特にフクシマ以降、上端から吐き出される白い煙は毒を含んだ悪魔の吐息にしか見えない。カメラは、原発施設の内部に入り込み、神殿のごとき荘厳さを纏う原子炉から廃棄物が保管される地底深くのトンネルまでレンズを向ける。


1970年代、積極的に建設を進めていたドイツの原発は四半世紀以上を経ても最新設備を誇っている。異常を感知したら即座に運転をストップさせコンピューターと人間で4重にチェックするシステム、対航空機テロ対策、スイッチとメーター類に囲まれた指令室、従業員の放射線対策等、事故の可能性が限りなくゼロに近いデータを強調する。


機能優先で無駄のないデザインは無機質だが清潔、その冷たさからは徹底的にヒューマンエラーを排除する設計の思想がうかがえる。そこは完全にコンピューターの管理下に置かれ、わずかな変化でも危険を知らせる。それらは20世紀の科学者が思い描いた未来像だったのだろう、感情も体温も感じられない機械が主役のSF映画のように現実感は希薄だ。無人の指令センターでライトが点灯する一方、廊下にサイレンが鳴り響くシーンは、安心感よりもむしろ不気味さの方が勝っていた。


◆以下 結末に触れています◆


映画のトーンはどちらかというと、原発関係者が主張する安全性に対し一歩引いたところからシニカルな視線を送っている感じ。相手に批判もせずコメントも付けないことで「原発関係者の言い分は聞くが、信じているわけではない」姿勢を貫く。世界中が原発安全神話の嘘を知ってしまったいま、それは声高に反原発を唱えるよりも強烈な効果を上げている。冷却塔内に作られた遠心ブランコで子供たちが嬌声を上げる姿は、未来を明るいものにしようとして作られたはずの原発が子供たちの未来を奪いかねない危険なものだったという皮肉としか思えなかった。。。