こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クリスマスのその夜に

otello2011-10-08

クリスマスのその夜に

ポイント ★★★
監督 ベント・ハーメル
出演 トロンド・ファウサ・アウルヴォーグ/レイダル・ソーレンセン/ニナ・アンドレセン・ボルド
ナンバー 230
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


子供たちにプレゼントを渡せるのも、愛人との密会を楽しめるのも、ガールフレンドと星を見上げられるのも、古い恋人と偶然会えたのも、すべては世の中が平和なおかげ。クリスマス・イブの夜、人はみな何かいいことが起きるのではと期待し、優しくなれる魔法にかかったように他人の願いを叶えていく。カメラの視線はあくまでも包み込むようにあたたかく、幸福とはこうした小さな幸せの積み重ねであると映画は語りかける。


妻に追い出されたパウルはサンタに変装して我が子に会おうとする。カリンは不倫相手のクリステンに妻とは別れないと告げられる。トマスはクリスマスを祝わないモスリムの娘・ヒンドゥから天体観測に誘われる。ホームレスのヨルダンは若いころ付き合っていたヨハンヌと再会する。


イブの夜も勤務シフトに入っている医師のクヌートは、男に呼び出されて隠れ家に連れて行かれ、彼の妻の出産を手伝わされる。このカップルは民族紛争の当事者であり犠牲者、不法入国ゆえまともな医療を受けられない。クヌートは、一度はナイフを突き付けられた恐怖感を乗り越え、生まれてくる赤ちゃんに自分たちの未来がかかっていると、彼らに対し善意で報いようとする。そうした、市井の人々にもたらされるわずかな変化こそがクリスマスの奇跡、大上段に構えず人間の目の高さで描こうとする控え目な作為が心地よい。


◆以下 結末に触れています◆


イブに授かった命はセルビアアルバニア間の宗教対立融和の象徴。そしてその誕生を祝福するかのように、夜空にはシリウスが輝きとオーロラのカーテンがたなびく。彼らには帰るべき家がない、それでも新天地で家族とともにゼロからやり直す希望に満ちた映像が美しかった。プロローグ、敵対勢力の母子をスコープにとらえ引き金に指を駆けた狙撃手の思いが、彼女自身に「新しい人生」を贈ったというオチもウイットが効いていた。「殺してはいけない」それはきっと彼女のお腹の子の切望だったのだろう。。。