こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

夜明けの街で

otello2011-10-13

夜明けの街で

ポイント ★★
監督 若松節朗
出演 岸谷五朗/深田恭子/木村多江/石黒賢/萬田久子/中村雅俊
ナンバー 243
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


恋のときめき、秘密を共有する愉しさ、ばれたらどうしようというスリル。一方で、嘘をつき通さねばならない後ろめたさ。誰も傷つけないようにうまく立ち回っているつもりでも、結局はどこかで破たんしてしまう危うさが端正なカメラワークで掬い取られる。さらに女の忌まわしい過去と妻の感情も忘れない。映画はそんな“不倫”の甘い地獄に堕ちた男の心の変化を軸に、一線を踏み越えてしまった男と女の繊細な心情を描く。だが、テーマそのものがあまりにも古臭く、ミステリーの味付けも蛇足気味。こうした作品は主演女優の大胆な濡れ場でもなければ物足りない。


大手ゼネコン課長の渡部は、泥酔した派遣社員の秋葉を送った時に上着を汚されたのをきっかけに、彼女と密会を重ねる。ある日、秋葉は実家で起きた時効寸前の殺人事件の真相を渡部にほのめかす。


「不倫するやつなんてバカだと思っていた」。渡部の独白が象徴する通り、いかにもな展開が待ち受ける。メールでのやり取り、ゴルフや出張といった見え透いた言い訳、クリスマスイブのアリバイ作り、バレンタインデーの逢瀬etc。それらのエピソードは、これまでの不倫ドラマで散々見飽きたシチュエーションばかりだ。そして秋葉を選べば可愛い娘と従順な妻を捨てる決断を迫られる渡部の逡巡なども、細かく再現するほど既視感にとらわれる。そのあたり、もっと今の時代を感じさせてくれる新しさを見せてほしかった。また渡部の態度があまりにも真面目。不倫するやつがバカなのではなく、不倫にのめり込むやつがバカなことをこの男は知るべきだった。


◆以下 結末に触れています◆


やがて、秋葉がかねてから口にしていた運命の日がやってきて、渡部もその場に証人として呼ばれる。しかし、もともと渡部とは何の関係もない話で、そこからは秋葉の持つ屈折は感じられない。それよりも、渡部の行動をすべて見抜いていながら今の暮らしを守るために気づかぬフリをしていた妻の情念の方が、よほど地獄と呼ぶのにはふさわしかった。。。