こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

1911

otello2011-10-20

1911 辛亥革命


ポイント ★★★
監督 チャン・リー
出演 ジャッキー・チェン/ウインストン・チャオ/リー・ビンビン/フー・ゴー/ジェイシー・チェン/ユィ・シャオチュン/ジョアン・チェン
ナンバー 245
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


破たん寸前の封建主義、外国による植民地化。朝廷は軍閥に頼り、列強は既得権益の甘い汁を手放そうとはしない。革命の父孫文はそんな二重苦から同時に中国を解放しようとする。彼の壮大な夢は言葉として語られるうちに輪郭を持ち始め、同士の血によって形になっていく。だが、あくまで孫文は大義を説き、決して銃を手にして前線に出たりはしない。その、革命という内戦のさなかでも文治主義を貫く中国人の気高いメンタリティが印象的だ。映画は辛亥革命の端緒となった武昌蜂起を軸に、孫文の大統領就任、ラストエンペラーの退位、袁世凱の暗躍までを描く。やや総花的になりがちな内容を、ひとりの兵士の目を通すことで人間ドラマとしての体裁を整えている。


サンフランシスコで華僑相手に孫文が革命資金を募る一方、盟友・黄興は革命軍を率いて広州総督府を襲撃するが反撃に会う。黄興らは態勢を立て直し武昌蜂起を成功させるが、朝廷は袁世凱を鎮圧に差し向ける。


革命軍・朝廷共にたちまち軍資金に窮するようになる。孫文はロンドンに飛んで欧米各国に清朝に未来はないと訴え援助を控えさせる。袁世凱も朝廷からの支援なしにはこれ以上の軍事行動を拒否し、革命は複数勢力による駆け引きに変貌する。もちろん武力衝突があった地域では多くの若者が命を落とすが、むしろ孫文袁世凱の頭脳戦心理戦といった様相を呈してくる。このあたり、革命の理想は高くとも妥協せざるを得なかった孫文の失望とは対照的に、現実を分析し朝廷や日米欧のパワーバランスをうまく利用し立ち回りつつ己の野心を実現していく袁世凱の狡猾さが際立っていた。


◆以下 結末に触れています◆


物語は時代の大きなうねりに呑み込まれた人々の濃厚なドラマにするために、戦場を駆け巡った黄興にスポットを当てる。若き日の汪兆銘に象徴されるように、清王朝の箍が外れた中国ではその後数十年にわたって覇権をめぐって裏切りと謀略が繰り返される。その中で黄興の孫文に対する忠誠と友情だけは決して揺るがない。革命の偉大な成果は、数え切れないほどの無名の兵士や市民の犠牲の上に成り立っていることをあらためて考えさせる作品だった。